陸行水行

陸行水行について

『陸行水行』（りっこうすいこう）は日本の著名な作家、松本清張による短編小説です。この作品は1963年から1964年にかけて『週刊文春』で連載され、1964年に短編集『陸行水行-別冊黒い画集2』として刊行されました。物語の舞台は、大分県の安心院で、著者が長年の研究テーマである邪馬台国にまつわるもので、その内容は歴史と人間の思考の交錯を見事に描き出しています。

あらすじ

物語の主人公、川田修一は東京の大学で万年講師を務めています。ある日、彼は妻垣神社の境内で郷土史家の浜中浩三と出会います。浜中は『魏志倭人伝』の内容に言及し、邪馬台国へ至る道筋について自身の解釈を展開します。彼の新たな視点に惹かれた川田は、駅館川近くの洞窟遺蹟を共に訪れることにします。

数ヶ月後、地方新聞に浜中が邪馬台国についての意見を募る広告を掲載し、それを見た川田は興味を持ち続けます。しかし、浜中からの音沙汰が無い状況が続き、彼のもとには浜中に関する訴えや疑念の手紙が次々と届くようになります。特に、臼杵地方の女性からの手紙には、彼女の夫が浜中と一緒に邪馬台国を探究しに行った後、音信が途絶えたことが記されており、その状況に川田は不安を感じます。

主なテーマと作家の意図

本作は、古代史に対する探求心や、地域の歴史が現代に与える影響を掘り下げた作品です。松本清張はこの作品の発表前に1980年代に書き留めたメモの中で、すでに邪馬台国についての興味を抱いていたことを示しています。清張自身は、作品を通じて邪馬台国に関する議論を具現化し、その結果として『古代史疑』という別の論文を書くに至ったと言います。

作品には、浜中の正体やその思考過程が徐々に明らかにされる要素があります。彼が邪馬台国に取り憑かれた姿は、読者に歴史や文化の影響を強く印象づけます。文芸評論家の平野謙はこの作品の背景に、著者の強い関心があったことを指摘しており、松本清張の作品に共通するテーマとして注目されています。

文学的影響

『陸行水行』は古代史をテーマにしたフィクションとノンフィクションが融合した初の試みとして評価されています。また、松本清張の作品が多くの人々に古代史への興味を喚起させたことが、タレントの上岡龍太郎の言葉からも明らかです。

物語の舞台となった安心院地域には、著者が1942年に初めて訪れた際の印象が深く刻まれており、彼が好んで訪れる「やまさ旅館」や文学碑もその証拠です。1982年には、本作の一節を刻んだ文学碑が建立されましたが、松本自身はその名誉碑に対する考え方について否定的であったとされています。

このように、松本清張の『陸行水行』は、古代の歴史と現代の人間の関係、そしてその探求に対する情熱を見事に表現した作品であり、今なお多くの読者に感動を与えています。

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