障害者プロレス

障害者プロレスとは

障害者プロレスとは、障がいのある選手たちが主役となって行われるプロレスリングの一形態です。単なるスポーツ競技としてだけでなく、障がいを持つ人々の多様な姿や可能性を社会に示す表現の場としても機能しています。一般的なプロレスとは異なる独自の規則や分類方法が設けられている点に大きな特徴があります。

独自のルールと勝敗

障害者プロレスの試合においては、安全と公平性を考慮した特別なルールが適用されます。主なものとして、以下のような取り決めがあります。

選手の障がい部位を意図的に攻撃することは禁止されています。
試合の勝敗は、通常のプロレスで見られるような3カウントによるフォールアウトでは決着せず、対戦相手からのギブアップ、またはレフェリーによるTKO（テクニカルノックアウト）によってのみ決定されます。
障がいのある選手と障がいのない選手（健常者）が対戦する場合、健常者側の選手は、相手選手の障がい部位と同じ箇所に「枷（かせ）」と呼ばれる拘束具などを装着し、条件を揃えて試合を行います。

これらのルールは、参加する全ての選手が安全に、そしてその能力を最大限に発揮できるようにするための工夫と言えます。

階級分類

障害者プロレスでは、一般的なプロレスのように体重によって階級が分けられるのではなく、選手の障がいの程度や運動能力に応じて階級が設定されています。主な階級区分は以下の通りです。

ヘビー級: 補助なく自立して歩くことができる選手や、比較的障がいの軽い選手が属します。
スーパーヘビー級: 膝立ちや座位の状態で試合を行う選手がこの階級となります。
ミラクルヘビー級: 最も障がいの重い階級とされ、自力での移動が困難な選手も含まれます。

団体によっては、選手が立って闘う「スタンディングクラス」と、座って闘う「シッティングクラス」というように、試合中の体勢でクラス分けを行っている場合もあります。

参加する選手たち

障害者プロレスには、障がいを持つ選手だけでなく、健常者のプロレスラーも参加しています。特に、東京を拠点とする「ドッグレッグス」は、健常者と障がい者が混在する試合を行うことで知られています。健常者の選手が試合に参加する際には、前述の通り、相手となる障がい者選手の状況に合わせた枷を装着し、対等な条件での勝負を目指します。

一方、女子プロレスの専門団体は存在せず、2010年時点では、女子選手はドッグレッグスのような混合団体に所属して活動しているのが一般的です。

歴史と社会的な意義

障害者プロレスの誕生には、強い社会的なメッセージが込められています。その起源の一つとして語られるのは、ボランティア活動を通じて障がい者と接してきた北島行徳氏の思想です。氏は、健常者の持つ障がい者への無関心やステレオタイプな認識が問題の一端であると考え、障がいのある人々が公の場で自分自身を表現する機会を作ることが、社会の理解を深める上で有効であると信じました。

こうした考えに基づき、1991年に障害者プロレス団体「ドッグレッグス」が旗揚げされました。当初は障がい者同士のタッグマッチが中心でしたが、観客に障がい者と健常者の違いという現実をより印象づけるため、両者がタッグを組む形式も導入されました。

その後、2000年にはドッグレッグスの元選手によって福岡で「Force」が設立されるなど、他の地域にも活動が広がりました。また、仙台では「障がいがあっても好きなことをやりたい、それがプロレスでも良いじゃないか」という思いから「ODAZUNA」が結成されています。

近年では、NHK教育テレビの番組「バリバラ」などで取り上げられる機会が増え、障害者プロレスに対する一般社会の認知度も向上しています。障がい者の「表現の場」としての役割は、現在も多くの人々に影響を与えています。

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