雌蛭

小説『雌蛭』の概要

『雌蛭』は、横溝正史による金田一耕助シリーズの短編推理小説で、1960年に『別冊週刊大衆』で初めて発表されました。本作では、金田一耕助が独特の服装で事件に臨み、彼の探偵としての腕前が発揮されます。

あらすじ

物語は昭和30年のある夜、金田一が渋谷のアパートに呼び出されるところから始まります。彼は依頼者から、忘れたハンドバッグを取りに行くよう指示されますが、その際にバッグの中身は確認しないことが条件として付けられています。この少し不審な依頼を受け、金田一は調査を開始します。

エレベーターを利用してアパートの4階に向かう途中、金田一はエレベーターから降りてくる一人の男性に出くわします。彼はその後、廊下を曲がって去っていくのを見届けつつ、金田一は自身の目的を果たすべく8号室の中に入ります。そこには、硫酸で顔と下腹部を焼かれた男女の遺体があり、さらにハンドバッグの中身も散乱していました。手がかりがあるはずのバッグを手にする金田一。そんな中、彼はこの家に訪れた男性に遭遇します。この男こそ、エレベーターで出会った人物であり、金田一は彼の動きに疑念を抱きます。

7月の初め、金田一は警察署を訪れ、被害者が流行作家の立花信二であることを知ります。信二の妻である昌子が共に死亡しており、彼らの関係には謎が多く、金田一は依頼者からの連絡がない中で調査を進めます。犯行の背景には、立花と昌子の複雑な人間関係が潜んでいることを感じ取ります。

金田一は、昌子の妹である梅本繁子を訪れ、事件の真相を探ろうとします。立花の遺産が昌子を経由して得られることを意識した繁子の怪しい動きが、事件の奥深くに潜む人物の思惑を浮かび上がらせます。物語が進むにつれ、河野健太という男が新たな重要人物として浮上し、彼の動向を追っていくことに。多門六平太の助けを借りて河野の調査を進めます。

物語は徐々にクライマックスへ向かい、金田一は泰子の失踪や彼女の関連情報を逐次製作しながら、事件の真相に迫ります。そして、河野が泰子の死体を埋めようとしている現場に多門が駆けつけ、ついに彼の正体を暴くことに成功します。河野が持っていたコンパクトに記されたイニシャルは、事件に奥深く関与する人物のヒントを与えます。

登場人物

• - 金田一耕助：私立探偵であり、事件を解決に導く役割を持つ。
• - 立花信二：流行作家で、事件の被害者。同じく被害者の昌子とは血のつながりのない兄妹。
• - 立花昌子：信二の妻。事件の重要な鍵を握る人物。
• - 梅本繁子：昌子の妹で、事件に関与することになる。
• - 河野健太：昌子が以前働いていたバーのバーテン。

事件の結末にはさらに意外な展開が待ち受けており、昌子が意図的に別人を装い、信二と泰子との複雑な関係が明らかにされます。彼女の真の姿が浮き彫りになり、金田一は事件の背後に潜む人間の心理や動機に迫ります。『雌蛭』は、横溝正史特有のミステリー要素と人間ドラマが見事に融合した作品であり、読者に深い印象を残す一編です。

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