雨の嵐山

雨の嵐山：知られざるデビュー曲の物語

1977年2月25日、日本の音楽シーンに、後に国民的シンガーソングライターとなる長渕剛のデビューシングル「雨の嵐山」が誕生しました。しかし、この曲は決して順風満帆なデビュー曲とはなりませんでした。むしろ、彼の音楽人生における重要な転換点、そして忘れられた過去を象徴する曲と言えるでしょう。

挫折からの出発：ヤマハポピュラーソングコンテストとデビュー

長渕剛は、吉田拓郎のライブに感銘を受け、自身で楽曲制作を始めました。福岡のライブハウスで経験を積み、プロを目指して、当時多くのミュージシャンを輩出したフォーライフ・レコードにデモテープを送りますが、返答はありませんでした。その後、ヤマハポピュラーソングコンテスト（ポプコン）への出場を機に、「雨の嵐山」がレコード会社関係者の目に留まり、ビクターレコードとの契約、そしてデビューへと繋がります。しかし、この曲は長渕自身の意図とは異なる方向へ進んでいきます。

レコーディング：アーティストの意図と乖離したアレンジ

レコーディングは、既にアレンジがほぼ完成した状態で進められました。長渕は歌入れのみを担当し、琴やオーケストラが加えられた歌謡曲風の編曲には違和感を覚えながらも、デビューの喜びに押し切られる形で完成を迎えました。後に、彼はこのアレンジを「大先生とやらの手によって好き勝手にアレンジされちまった」と振り返り、自身の音楽性とはかけ離れたものだったと語っています。編曲を担当した船山基紀氏も、長渕の人物像を理解せずに行ったアレンジに後悔の念を表明しています。

失恋の物語：歌詞に込められた等身大の感情

「雨の嵐山」の歌詞は、長渕自身の高校時代からの交際相手との失恋体験が基になっています。京都の短大に通う彼女との遠距離恋愛、そして突然の別れ、そして博多への帰郷。この切ない経験が、曲に深みとリアリティを与えています。

そして、忘れられたデビュー：商業的失敗と再デビュー

リリース後、「雨の嵐山」は全く話題にならず、長渕は音楽活動を続けることを断念し、九州に帰郷します。その後、東芝EMIから「巡恋歌」で再デビューを果たすまで、この曲は長渕の公式なアルバムには収録されることはありませんでした。彼の公式ウェブサイトでも、デビュー曲は「巡恋歌」とされており、「雨の嵐山」の存在はほとんど語られていません。

それでも残された足跡：再評価とライブでの披露

しかし、「雨の嵐山」は完全に忘れられたわけではありません。コンピレーションアルバムに収録されたり、楽譜集に掲載されたり、そして2009年のデビュー30周年記念ライブで一部が披露されたりと、少しずつその存在が再確認されています。長渕自身も、この曲を「暗い曲」と評し、その当時の苦悩や葛藤を改めて語っています。

ジャケット写真：フォークシンガー像への疑問

シングル盤のジャケット写真は、シンプルな空間でギターを傍らに置く長渕の写真です。フォークシンガーらしい演出を求めたディレクターの意向でしたが、長渕は強い不満を抱えていたといいます。この写真からも、彼の当時の心境が窺えます。

結論：忘れられたデビュー曲の物語

「雨の嵐山」は、長渕剛の音楽人生における重要な転換点であり、彼の才能と葛藤、そして音楽業界の現実を浮き彫りにする曲です。商業的には成功しませんでしたが、後の彼の音楽活動の土台となり、そして彼の等身大の感情を表現した、貴重なデビューシングルでした。この曲は、彼が辿ってきた道のりを理解する上で、決して無視できない存在なのです。

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