雲の上のキスケさん

雲の上のキスケさん：雨と光アレルギーの男女の繊細なラブストーリー

『雲の上のキスケさん』は、鴨居まさね氏による人気漫画作品です。1997年から2004年にかけて『YOUNG YOU』誌上で連載され、その後単行本全5巻（クイーンズコミックス）として刊行されました。さらに、集英社漫画文庫からも全2巻でリリースされています。

物語の中心となるのは、雨の日に偏頭痛に悩まされるOL、石井眉子と、日光アレルギーを持つ漫画家、小寺器裕（キスケさん）です。

眉子は、恋人に振られた失恋のどん底にいる中、キスケさんに漫画のモデルを依頼されます。この出会いがきっかけとなり、2人の人生は大きく動き出します。

眉子の過去には、父親からの虐待や、成長期に経験した辛い出来事など、心に深い傷を負っていました。営業職への転職後、恋人に「バカにした目で見られたくない」と一方的に振られたことで、彼女はさらに自信を失っていました。

一方、キスケさんは日光アレルギーのため、日中の外出を避け、夜行性な生活を送っています。そのため、彼の生活空間は遮光フィルムで覆われた部屋となっています。しかし、眉子との出会いをきっかけに、彼は少しずつ変わっていくのです。

2人の関係は、最初は漫画のモデルという仕事関係から始まりましたが、次第に互いに惹かれ合い、深い愛情で結ばれていきます。お互いの弱点を理解し、支え合うことで、2人は心の傷を癒していくのです。

物語は、2人の恋愛模様だけでなく、眉子の周りの友人や、転職先の同僚との人間関係も丁寧に描かれています。眉子の高校時代の友人である岡本太郎（通称「岡ちゃん」、ゲイでキスケさんに好意を持つ）、マニー（華僑系のシンガポール人で美容関連商品の輸入会社経営）、そして死海エステ店「デッドシー・ハウス」で出会う人々との交流は、眉子の成長に大きく影響を与えます。

「デッドシー・ハウス」の店長である人見や、眉子より後に転職してきた佐々木など、個性豊かな登場人物たちは、それぞれに悩みや過去を抱えながらも、眉子と深く関わり、物語に彩りを加えています。佐々木は嫁姑問題で苦労した過去を持ち、美容師として10年間働いた後、人間関係に悩み転職してきています。

この作品の魅力は、単なるラブストーリーにとどまらず、登場人物たちの心の葛藤や成長、そして人間関係の複雑さをリアルに描写している点にあります。雨と光という自然現象を通して、繊細な心の機微を丁寧に描き出している点も見逃せません。

眉子が抱える雨への恐怖や、キスケさんの日光アレルギーは、単なる設定ではなく、彼らが抱える心の弱さや、過去の傷を象徴していると言えるでしょう。2人が互いに理解し、支え合うことで克服していく過程は、読者に感動と共感を呼び起こすでしょう。

『雲の上のキスケさん』は、恋愛、友情、そして自己肯定といった普遍的なテーマを、繊細な筆致で描いた、心温まる物語です。読後には、自分自身と向き合い、周りの人を大切にすることの大切さを改めて感じることでしょう。

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