雲峴宮

ソウル特別市鐘路区に佇む雲峴宮は、李氏朝鮮時代末期から近代にかけての韓国史において、非常に重要な役割を果たした歴史的な空間です。特に、激動の時代を駆け抜けた人物、興宣大院君（フンソンデウォングン）の旧宅として、そして政治的駆け引きの中心地としてその名を歴史に刻んでいます。

この場所は、後に李氏朝鮮第26代国王となる高宗（コジョン）が、わずか12歳で王位に就くまでの少年時代を過ごした場所としても知られています。そして1863年、正式に「雲峴宮」という名称で呼ばれることになります。興宣大院君は、若き国王の摂政として権力を掌握し、国内改革や鎖国政策を推進しましたが、その政治活動の多くはこの雲峴宮を拠点として行われました。彼は一時、政治の表舞台から退かざるを得なくなりましたが、1885年の壬午事変（じんごじへん）後に再びこの地に戻り、院政（いんせい）の本拠地として再起を図りました。しかし、閔妃（ミンび）を中心とする勢力との権力闘争は激しさを増し、政治的立場が危うくなると、彼は雲峴宮で波乱の晩年を迎えることになります。1894年からは、この場所に事実上幽閉される形となり、4年後の1898年にその生涯を閉じるまで、この雲峴宮から外へ出ることは叶いませんでした。

雲峴宮の歴史は古く、その起源は14世紀まで遡ることができます。朝鮮王朝が建国される以前から、この地には何らかの建物が存在していたと考えられています。歴史の中で幾度かの変遷を経てきましたが、特に豊臣秀吉による朝鮮出兵（文禄・慶長の役、1592年〜1598年）の際には、多くの建築物が戦火によって失われるという大きな損害を受けました。しかし、幸いにも一部の建物は戦禍を免れ、現在までその姿を残しています。

時代が下り、高宗の即位後に権力を持った神貞王后趙氏（シンジョンワンフチョし）の指示によって、雲峴宮の敷地は大幅に拡張され、宮殿としての体裁が整えられました。この拡張により、四方に立派な門が築かれ、その威容は一層増しました。

近代に入り、日本による統治時代には、大院君の子孫からこの雲峴宮が接収されるという歴史を辿りました。第二次世界大戦が終結し、韓国が独立を果たした後、1948年には元の所有者に返還されました。しかし、時代の流れとともに、この歴史的な建物の維持管理は難しくなり、1993年にはソウル市に売却されることとなりました。ソウル市は、この貴重な歴史遺産を後世に伝えるべく、売却後に約3年間をかけて extensive な修復作業を行い、現在のような姿に整備しました。

現在の雲峴宮の敷地は、かつての広大さに比べると狭くなっています。これは、かつての宮域の一部に徳成女子大学校の教育大学院や、幼稚園、ゲストハウスなどの現代的な建物が建設されたためです。しかし、残された主要な殿閣や庭園は、李氏朝鮮時代末期の王族や権力者の生活、そして韓国の激動の歴史を静かに物語っています。ソウル市内にありながら、喧騒から離れた静寂を保つ雲峴宮は、多くの人々にとって歴史を学び、往時を偲ぶ貴重な場所となっています。

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