電波暗室

電波暗室とは

電波暗室（でんぱあんしつ、英：Electromagnetic anechoic chamber）は、外部からの電磁波の影響を遮断し、内部で発生した電磁波が反射しないように設計された特殊な実験室です。電波無響室とも呼ばれ、主に無線機器の性能試験やEMC（電磁両立性）計測などに利用されます。

電波暗室の概要

実験において電磁波を発射する際、周囲の電波環境や無線通信への影響を避けるため、実験空間を外部から隔離することが重要です。電波暗室は、この目的を達成するために、以下のような構造と機能を持っています。

シールドルーム: フェライトや金属などの導電性材料で覆われた、一種のファラデーケージとして機能し、外部からの電磁波の侵入を防ぎます。また、内部で発生した電磁波が外部に漏洩するのを防ぎます。
電磁波吸収体: シールドルームの内壁に設置され、内部で反射する電磁波を吸収します。これにより、暗室内の電磁波環境を制御し、外部からの影響を受けずに、発振源からの直接波のみを測定することが可能になります。

電波暗室の分類

電波暗室は、主に以下の5種類に分類されます。

1. オープンサイト: 開放された場所で測定を行う方法です。
2. 3m法電波暗室: 測定距離が3mの電波暗室です。
3. 10m法電波暗室: 測定距離が10mの電波暗室です。
4. 電波無響室: 6面全てに電磁波吸収体が取り付けられた電波暗室です。
5. シールドルーム: 電磁波シールドのみで、電波吸収体がない部屋です。

電波暗室は、内壁の構造によっても分類されます。6面全ての内壁に電磁波吸収体を取り付けたものと、床を除く5面に電磁波吸収体を取り付けたものがあります。後者は特に電波半無響室と呼ばれることがあります。

電波暗室の構造

電波暗室の外部構造は、体育館ほどの大きさになることがあります。内部に柱などの構造材を置くことができないため、強固な鉄筋コンクリート製の建物として建設されます。

内部構造は、実験対象となる機器に応じて選択されます。大地での電波反射を考慮する必要のない航空機や人工衛星などの測定には、6面全てに電磁波吸収体を取り付けたものが用いられます。一方、パソコンや家電製品など、大地での電波反射を考慮する必要のある測定には、5面に電磁波吸収体を取り付けたものが用いられます。

電磁波吸収体としては、炭素粒子を塗り込んだ四角錐型のスポンジや、フェライトを使用した楔状のものなどがあります。これらの吸収体は、電波を吸収するだけでなく、音波も吸収するため、電波暗室内は非常に静かな空間となります。

周波数との関係

電波暗室の大きさは、内部で発振する電磁波の周波数範囲によって決まります。周波数が高いほど、より小さい暗室での実験が可能になります。小さすぎる暗室内で、周波数の低い電磁波を発射すると、暗室自体が分極し、外部に電磁波が漏洩する可能性があります。

電磁波吸収体は、構成素材と構造によって、適用できる周波数範囲と減衰量が決まります。そのため、電波暗室には、複数の種類の電磁波吸収体が組み合わせて使用されることがあります。

性能の経年劣化と改修

電波暗室の性能は、経年とともに劣化していきます。性能劣化の主な原因は、電波吸収体の劣化やシールドルーム構造の劣化です。定期的に性能試験を行い、必要に応じて改修を行う必要があります。

レンタルでの利用

電波暗室の設備投資額や維持費は高額であるため、使用頻度が高くない場合は、必要な時だけ所有機関から賃借りすることが多いです。多くの所有機関が第三者へのレンタルを行っており、測定機器や専門技術者とセットで借りることも可能です。

オープンテストサイトとの比較

電波暗室は、外来の電磁波の影響を受けないため、オープンテストサイトに比べて測定の再現性が高いという利点があります。また、電波法関係規定上、無線局免許を取得しなくても実験を行うことができる場合があります。

まとめ

電波暗室は、無線機器の試験やEMC計測に欠かせない施設です。適切な電波暗室を選択し、定期的なメンテナンスを行うことで、高品質な測定結果を得ることができます。

もう一度検索