電着銃

電着銃：日本の映像作品を支える特殊小道具

電着銃は、映画やテレビドラマ、舞台などで使用される電気着火式プロップガンのことです。電気発火式、電着式と呼ばれることもあります。日本の銃器規制の厳しさから独自に発展した、演劇用小道具と言えるでしょう。

電着銃の概要

電着銃は、引き金を引くと電気回路によって着火された火薬が発火し、銃口から火花が噴き出す仕組みです。モデルガンの一種ですが、一般的なモデルガンとは異なり、使用される火薬は大きな火炎と爆発音が出るよう設計されています。そのため、火薬類取締法上の規定が適用され、取り扱いには火薬類取扱保安責任者の資格が原則として必要になります。このため、電着銃とその専用火薬は一般には販売されていません。映画やテレビドラマなどの特殊効果において重要な役割を果たす小道具です。ガンエフェクトで使用される弾着も電着銃の応用から生まれたものです。

電着銃の構造

電着銃に使用される火薬は、小さな筒状の火薬部分とソケット接合部から構成され、銃口部のソケットに挿し込まれます。拳銃型では3～4発を装填できる構造が一般的です。引き金はロータリースイッチと連動し、引き金を引くことでソケットへの通電と次弾への切り替えを同時に行います。機関銃などのフルオート射撃の場合は、引き金を引いている間、通電と次弾切り替えを繰り返します。電源は乾電池で、電池ボックスはグリップ部などに収納されていることが多いです。

電着銃の長所と短所

長所

構造の柔軟性: 実銃のような複雑な物理的機構が不要なため、部品配置に融通性があります。そのため、拳銃から戦車砲まで幅広い形状への応用が可能です。
作動の安定性: 機械的なトラブルが少ないため、作動不良による撮影中断のリスクが低いです。
操作性の良さ: 引き金が電子スイッチであるため、トリガーを引く力が軽く、誰でも扱いやすい点がメリットです。
高い安全性: 銃としての機能は皆無であり、改造による悪用が困難です。

短所

リアリティの不足: 実銃のような装填、マガジン脱着、排莢などの動作を省略したものが多いため、リアリティに欠ける場合があります。
火薬の詰め替え: 火薬の詰め替えには本体の分解・組み立てが必要なため、撮影の効率性を下げる可能性があります。
発火事故の危険性: 火薬の詰め込み時に通電中のソケットに誤って触れると発火し、負傷する可能性があります。
外観の制約: 多くの電着銃は、玩具のような見た目になることがありました。しかし、近年はリアルな外見を持つ電着銃も登場しています。また、銃口部からのアップ撮影では火薬の存在が目立つ場合があり、撮影アングルに配慮が必要です。

電着銃の歴史

電着銃は、戦後の日本の厳しい銃器規制の中で、映画や演劇の小道具として発展しました。初期は、玩具銃の改造や警察の協力のもと空砲を使用するなど、制約の多い状況でした。

1960年代、映画会社の日活はMGC(日本MGC協会)に映画用小道具銃の製作を依頼しました。MGCの小林太三氏がコルトM1903をモチーフにした自動拳銃型電着銃を開発し、日活アクション映画で広く使用されるようになりました。「日活コルト」として知られています。その後、戸井田板金製作所(後の戸井田工業)が電着銃の量産を開始し、様々な種類の電着銃が製作されました。

1971年の銃刀法改正により、金属製の拳銃型モデルガンは規制強化されました。そのため、電着銃もプラスチック製の外装に変更されました。

1970年代以降、映画作品に合わせて、市販モデルガンやエアソフトガンをベースに製作された電着銃も増加しました。トビー門口やビッグショットといった小道具担当者、MGCなどのメーカーが様々な電着銃を製作しました。

電着銃の種類

電着銃は拳銃、ショットガン、自動小銃・短機関銃、機関銃など、様々な種類が存在します。ここでは、代表的な例を挙げます。

拳銃型: 日活コルト、ルガーP08、S＆W M44コンバットオート、S＆Wチーフスペシャルなど
ショットガン型: レミントンM31RS1、レミントンM31RS2など
自動小銃・短機関銃型: 64式小銃、M16E1、トンプソン、M3グリースガン、H＆K MP5SD3、H＆K MP5K、AK-47など
機関銃型: 62式7.62mm機関銃、ブローニングM2重機関銃など

これらの電着銃は、数多くの映画やテレビドラマで使用され、日本の映像文化に貢献してきました。

参考文献

BIG SHOT~日本映画のガン・エフェクト~
月刊Gun
イラコバワークス小林弘隆画集
モデルガンチャレンジャー
コンバットマガジン
MGCをつくった男

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