霊長類南へ

小説『霊長類南へ』の概要

『霊長類南へ』は、1969年に筒井康隆によって発表された長編SF小説であり、翌1970年には第1回星雲賞（日本長編作品部門）を受賞した作品です。この物語は、冷戦時代における核戦争の危機を舞台に、人間の愚かさや儚さをコミカルに描いています。物語は短い章から構成されており、それぞれが独立したエピソードとして展開される一方、全体としては終局へと向かう流れを持っています。特に注目すべきは、様々な登場人物たちが核戦争に直面する様子や、その中での人間関係の変化が生々しく描かれている点です。

あらすじ

物語は、東京の銀座四丁目で始まります。そこで最初に異常を感じたのは路上で商売をする易者でした。彼はその日、自身も含めて全ての人の手相に死兆を見て、怯える様子を見せるが、周囲の人々は彼を軽蔑の目で見つめるだけでした。この不気味な予兆から始まる物語は、様々な場所に視点を移しながら展開します。

次に舞台は瀋陽のミサイル基地に移ります。ここでは、互いに反発し合う中国の軍人たちが偶発的な喧嘩を繰り広げ、その愚かさが世界の終焉を招くきっかけとなるのです。

また、新聞記者の澱口という主人公が登場し、彼の婚約者やガールフレンド、同僚たちとの様々な交流を通じて、核戦争勃発のニュースを受け入れていく様子が描かれています。澱口は、都内でガールフレンドの香島珠子と過ごしている最中に、急遽社に戻る事を決意し、さまざまな試練に直面します。

物語は、阿鼻叫喚の渦中で各々がどのように行動し、どのように絶望していくのかを描きます。特に、永田町では総理大臣らが南極へ避難しようと試みる様子が描写され、ヘリコプターの数が圧倒的に足りないことから生じる混乱が印象的です。澱口と珠子は様々な障害を克服しながら、互いの絆を確かめ合い、最終的には澱口が婚約者と再会する場面が印象深い。

最終的には、南極点で最後の霊長類として生き残ったブライアン・ジョー・バラードが扱われ、彼の発した一句は、この物語の中心的テーマである無意味さを強く印象づけます。物語の結末は、希望と絶望が交錯する中で、何が本当に残されるべきかを問いかけるような終局を迎えます。

登場人物

• - 澱口襄: 毎読新聞社の記者で、25歳。大阪に婚約者がいるが、東京ではガールフレンドと関係を持つ。
• - 香島珠子: 澱口のガールフレンド。モデルの仕事をしており、物語の中で澱口と重要な関係を築いていく。
• - 野依渉: 政治部の記者で、澱口と親しい友人。戦争勃発後も情報収集に留まる。
• - 山内ツヨシ: 澱口と行動を共にする小学5年生。機械いじりが得意。
• - 大橋菊枝: 澱口の婚約者で、大阪在住。
• - 亀井戸: 銀河テレビのディレクターで、物語の中で複数の視点で登場する。

作品の受賞歴と出版情報

『霊長類南へ』は、筒井康隆が第1回星雲賞で日本長編作品部門を受賞した他、同時に『フル・ネルソン』でも短編作品部門を受賞しています。これにより、彼のSF小説は日本におけるSF文学の発展に寄与しました。講談社文庫版が1974年に刊行され、その後も角川文庫版が1986年に発表されています。

この作品は、核戦争というテーマに対して、単に恐怖を描くだけでなく、世俗的な人間ドラマを通じて、より深いメッセージを伝えています。

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