霞橋 (横浜市中区)

霞橋（かすみばし）

横浜市中区新山下1丁目の新山下運河に架かる霞橋は、トラス構造の道路橋です。この橋は、ただの交通手段としてだけでなく、その歴史と再利用された部材が物語る、技術と継承の象徴でもあります。

歴史

最初の霞橋は、1964年に幅4メートルの車道橋として、1976年には幅1.5メートルの人道橋がそれぞれ建設されました。しかし、2008年度の水中調査と翌年度の板厚測定で腐食が確認されたため、架け替え工事が行われることになりました。この際、総事業費5億円を投じて、新鶴見操車場の江ヶ崎跨線橋の一部部材が活用されました。

この部材は、元を辿ると1896年に竣工した日本鉄道土浦線（現在の常磐線）の隅田川橋梁に用いられていました。イギリス製の鋼材を使い、イギリス人技師の指導のもと、日本人が設計・製造を担当しました。当時、支間長62.8メートルは鉄道橋としては最大級であり、複線式のプラットトラスは日本初の構造でした。しかし、1928年に機関車の荷重が増加したため、橋は撤去されることとなりました。

その後、1929年には隅田川橋梁のプラットトラス2連と、東北本線の荒川橋梁（1895年竣工）が組み合わされ、新鶴見操車場の開業によって分断された鶴見区と川崎市幸区を結ぶ江ヶ崎跨線橋に再利用されました。この橋も老朽化により撤去されることになったのですが、その歴史的価値から、横浜市は腐食が進んでいない部材を保存し、霞橋の架け替えに転用することを決定しました。

上部工工事は盛岡市の北日本機械が担当し、盛岡で組み立てられた橋は陸送で横浜に運ばれ、現地に据え付けられました。同時期に周辺で架け替えられる新開橋と見晴橋では新たに橋が架けられることから、霞橋では古い橋を再利用することについて、住民の理解を得るための広報活動も行われました。完成が近づいた2012年12月からは橋がライトアップされ、住民から好評を博しました。

橋の周辺整備も合わせて行われ、橋の傍には由来を説明した解説板が設置されたほか、江ヶ崎跨線橋から運ばれた支承1個がモニュメントとして置かれています。

架け替えられた橋は、2013年3月21日に供用を開始しました。2014年6月には、土木学会田中賞を受賞し、同賞を受賞した橋の中で最も短い橋となりました。また、横浜市都市整備局主催の「横浜・人・まち・デザイン賞」まちなみ景観部門など、数々の賞を受賞しています。

構造と技術

霞橋の架け替えは、単に古い橋を新しいものに置き換えるだけでなく、過去の技術と歴史を尊重し、それを現代に活かすという、高度な技術と革新的な発想が結集したプロジェクトでした。特に、隅田川橋梁と江ヶ崎跨線橋という二つの歴史的な橋の部材を再利用するという試みは、資源の有効活用と文化遺産の継承という両面において、非常に重要な意味を持っています。橋梁の再利用は、単にコストを削減するだけでなく、歴史的な構造物の一部を未来に残すという、文化的価値の高い行為と言えるでしょう。

まとめ

霞橋は、単なる道路橋ではなく、その歴史と構造が物語る、技術と文化の融合の象徴です。過去の橋の部材を再利用し、新たな命を吹き込むことで、都市の景観を美しくすると同時に、技術の継承と持続可能な社会の実現に貢献しています。橋の傍に設置された解説板やモニュメントは、この橋が持つ歴史的意義を後世に伝える役割を担っています。

参考文献

「土木のチカラ 100年以上も現役の橋を移設し利用 霞橋（横浜市）」『日経コンストラクション』第567号、2013年5月13日、14-20ページ。
鈴木淳司「117年前に製作されたトラス橋の再生〜霞橋架替事業の報告〜」『建設リサイクル』第64号、2013年、10-19ページ。
『霞橋（かすみばし） 江ヶ崎跨線橋から霞橋へ 霞橋架替事業 生まれかわり、語り継ぐ。先進の技術は、時代を超えた価値となることを』 横浜市道路局建設部橋梁課中土木事務所、2013年。

関連項目

横浜市認定歴史的建造物
霞橋 (横浜市西区・南区境) - 横浜市にある同名の陸橋。

外部リンク

平成25年度｜田中賞作品部門受賞一覧 - 土木学会田中賞
* 霞橋が土木学会田中賞を受賞しました (PDF) - 横浜市、2014年6月19日

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