青葉高

青葉 高 - 在来野菜研究の軌跡

青葉 高（あおば たかし）は、1916年5月18日に生まれ、1999年1月31日にその生涯を閉じた日本の農学博士です。彼の専門は蔬菜園芸学、すなわち野菜に関する科学的研究であり、特に日本の多様な在来作物の研究において、その先駆者として多大な功績を残しました。彼は単に学術的な探求に留まらず、「在来野菜は生きた文化財である」という強いメッセージを社会に発信し続け、その保全と価値の再認識を広く訴えました。

青葉氏は、現在のさいたま市にあたる埼玉県浦和町に生を受けました。若くして農学の道に進み、1937年には千葉高等園芸学校を卒業。その後、研究者としてのキャリアをスタートさせます。

彼の研究者としての道のりは、まず山形大学農学部から始まりました。ここでは助手、講師、助教授と段階を経て、1964年には教授に昇任。東北地方という、多様な在来作物が残る地域での研究経験は、後の彼の在来作物研究の基礎となったと考えられます。この間、学術的な研鑽を積み、1963年には京都大学から農学博士の学位を取得しました。博士論文のテーマは「タマネギの球形成および休眠に関する研究」であり、これは彼の後の研究、特に球根作物に関する専門性の基礎となりました。

1976年には、母校ともいえる千葉大学の園芸学部に教授として着任します。ここで、彼はさらに研究と教育に力を注ぎました。長年の研究活動の中で、彼は特に二つの分野で顕著な業績を上げました。一つは、前述の在来作物に関する研究です。高度経済成長期以降、日本の農業は効率化や画一化が進み、各地に根付いていた多様な在来品種は姿を消しつつありました。青葉氏はこうした状況に危機感を抱き、精力的に全国各地を調査し、埋もれつつあった在来品種を発掘、記録、研究しました。彼はこれらの在来品種が、その地域の気候風土に適応し、長年にわたる人々の営みの中で育まれてきたかけがえのない財産であると考え、「生きた文化財」と表現してその重要性を強調しました。これは、単なる農業技術の進化という側面だけでなく、食文化、歴史、生態系保全といった多角的な視点から農業を捉え直す画期的な考え方でした。

もう一つの重要な研究テーマは、球根作物の生理に関するものです。彼は特にタマネギなどの球根が形成されるメカニズムや、休眠という生理現象について深く掘り下げた研究を行いました。この分野での彼の貢献は学術的にも高く評価され、1976年には「球根作物の球形成に及ぼす温度の影響」に関する研究で園芸学会賞学術賞を受賞しています。これは、植物の生理生態を解明し、その知見を実際の栽培技術向上に繋げる園芸学研究の醍醐味を示す業績と言えるでしょう。

青葉氏は1982年に千葉大学を定年退官しますが、その後も研究活動から完全に離れることはありませんでした。1985年から1988年にかけては、国立歴史民俗博物館の研究協力者として委嘱されるなど、専門分野を活かした活動を続けました。

彼の研究成果や思想は、多くの著書として結実しています。単著だけでも『北国の野菜風土誌』、『野菜一在来品種の系譜』（ものと人間の文化史）、『日本の野菜』シリーズ（果菜類・ネギ類、葉菜類・根菜類）、『野菜の博物学』（ブルーバックス）、『野菜の日本史』、『野菜の博物誌』、『日本の野菜文化史事典』など多数に上ります。これらの著作は、彼の広範な知識と深い洞察に基づき、在来野菜の歴史、文化、生態、そして科学的な知見を一般の読者にも分かりやすく伝えるものです。特に『野菜一在来品種の系譜』や『日本の野菜文化史事典』といった著作は、在来野菜研究における基礎文献として、現在でも多くの研究者や農業関係者、食に関心を持つ人々に参照されています。また、『野菜の博物学』のような著作は、専門知識を一般向けに平易な言葉で解説する科学啓蒙書としても価値が高いと言えます。

長年にわたる農業科学、特に蔬菜園芸学分野における教育研究への貢献、そして在来作物研究という新たな領域を開拓し、その重要性を社会に広く認識させた功績に対し、1989年には勲三等旭日中綬章が授与されました。これは、国家として彼の業績を高く評価した証です。

青葉 高氏は1999年に82歳で永眠しましたが、彼が情熱を注いだ在来野菜の研究は、その後も多くの研究者や市民活動によって引き継がれています。彼が提唱した「在来野菜は生きた文化財」という言葉は、地域固有の多様な野菜が持つ価値を再認識するための重要なキーワードとして、今なお多くの人々に影響を与え続けています。彼の業績は、単に失われつつある品種を記録しただけでなく、日本の農業や食文化の多様性を守り、未来に繋げていくための基礎を築いたものとして、高く評価されるべきでしょう。

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