青鬼の褌を洗う女

青鬼の褌を洗う女

坂口安吾の短編小説『青鬼の褌を洗う女』は、型破りな生き方を選ぶ女性の姿を描き出し、読者の心を揺さぶる作品です。主人公のサチ子は、幼い頃から母親に「オメカケか金持ちの長男に嫁げ」と言われて育ちます。しかし、彼女は母親の価値観に反発し、自らの意志で様々な男性と関係を持ち、自由に生きる道を選びます。

モデルについて

作者である坂口安吾の妻であり、随筆家としても知られる坂口三千代が、主人公のモデルではないかと言われています。しかし、安吾自身は「特定のモデルはいない」と述べています。作品に登場する女性は、安吾が様々な人々から得たインスピレーションを基に創造された、架空の存在であると強調しています。

あらすじ

物語は、オメカケであった「母」が、娘の「私」に対し、自分と同じ道を歩むことを強く勧める場面から始まります。「私」は、遊ぶことが好きで貧乏を嫌う性格であり、窮屈な結婚生活は向いていないだろう、というのが母親の考えです。「私」自身もオメカケという生き方に嫌悪感を抱いてはいませんでしたが、母親からの束縛を煩わしく感じていました。

やがて戦争が始まり、社会は大きく変化します。オメカケという存在は「国賊」と見なされるようになります。そんな中、「私」は徴用された会社の、妻子ある専務に引き取られ、住まいを与えられます。専務は、「私」の浮気など、どんな行動も受け入れ、許容します。孤独な2人の魂は、互いを必要とし、寄り添って生きていくことを求めます。社会の規範から外れた場所に身を置きながらも、人間としての繋がりを求めずにはいられない、複雑な感情が描かれています。

作品の評価

福田恆存は、本作を「坂口安吾の実験はどうやらひとつの頂点に達した」と高く評価しました。既存の価値観にとらわれず、人間の本質を深く掘り下げようとする安吾の姿勢が、本作において結実したと捉えたのでしょう。

『青鬼の褌を洗う女』は、一見すると奔放な女性の生き様を描いた作品ですが、その奥には、人間の孤独、繋がり、そして生きる意味といった普遍的なテーマが込められています。坂口安吾ならではの独特なユーモアと、鋭い人間観察眼が光る、読み応えのある作品です。

青鬼の褌を洗う女：新字新仮名 - 青空文庫

もう一度検索