非単調論理

非単調論理とは

非単調論理（Non-monotonic logic）は、従来の形式論理とは異なり、新たな情報が追加されることで、以前に導き出した結論が取り消される可能性がある論理体系です。多くの形式論理は単調性を持ち、前提となる情報が増えても、それまで導かれていた結論が否定されることはありません。しかし、現実の世界では、新たな発見や状況の変化によって、以前の信念や推論を修正する必要が生じます。

単調論理と非単調論理の違い

単調論理は、前提となる情報が増えれば増えるほど、結論として導き出せる知識も増えていく、という特徴があります。つまり、一度正しいとされた結論は、後からどのような情報が追加されても覆されることはありません。これは論理的に非常に厳密な考え方ですが、現実世界の複雑な推論を扱うには限界があります。

一方、非単調論理は、新たな情報によって以前の結論が覆されることを許容します。これは、日常的な推論や、不完全な情報に基づいた推論を扱う上で非常に重要な特徴です。例えば、「鳥は飛ぶ」という一般的なルールがあったとしても、「ペンギンは飛べない」という例外的な事実が判明すれば、以前の結論を修正する必要があります。このような柔軟な推論を可能にするのが、非単調論理です。

非単調論理が必要となるケース

デフォルト推論

デフォルト推論は、特別な情報がない限り、一般的なルールを適用して推論を行う方法です。例えば、「鳥は通常空を飛ぶ」というデフォルトのルールがあるとします。もし、ある動物が鳥であると判明すれば、特に情報がない限り、「その鳥は飛ぶだろう」と推測することができます。しかし、後でその鳥がペンギンであることが判明すれば、この推測は撤回されます。このように、デフォルト推論は非単調な性質を持ちます。

デフォルト推論を形式化した論理には、デフォルト・ロジックや論駁論理など、任意のデフォルトの仮定を扱うものと、閉世界仮説やサーカムスクリプションのように、特定のデフォルトの仮定を採用し、その他の未知の事実をデフォルトで偽とみなすものがあります。

アブダクション

アブダクションは、既知の事実から、最も可能性の高い説明を推論する方法です。例えば、湿った草を見たとき、最も可能性の高い説明は「雨が降ったから」というものです。しかし、後で草が濡れた原因がスプリンクラーであると判明すれば、以前の推論は撤回されます。アブダクションは常に正しいとは限らず、新しい情報によって推論を修正する必要があるため、非単調な性質を持ちます。

知識に関する推論

何かを知らないという事実を含む推論も、非単調な性質を持ちます。例えば、「私はXを知らない」という知識があった場合、後でXを知った場合、「私はXを知らない」という知識は削除されます。このように、知識の追加によって以前の知識が削除されるため、非単調となります。自己認識論理は、このような推論を扱うための論理体系です。

信念更新

信念更新は、新しい情報が既存の信念と矛盾する場合に、信念を修正するプロセスです。新しい情報が正しいと仮定した場合、矛盾を解消するために、古い信念の一部を撤回しなければなりません。例えば、「今日は晴れだ」と思っていたが、「雨が降ってきた」という情報が入った場合、「今日は晴れだ」という信念を修正する必要があります。信念更新に基づく論理は、矛盾許容論理に代わるものとして研究されており、非単調性を持ちます。

非単調論理の応用

非単調論理は、人工知能の分野で広く応用されています。特に、以下のような分野で重要な役割を果たしています。

常識推論：日常的な推論や、不完全な情報に基づいた推論をモデル化する。
知識ベースシステム：知識の追加や修正に対応し、柔軟な推論を可能にする。
エージェントシステム：環境の変化に対応し、自律的に行動するエージェントを設計する。
自然言語処理：テキストや会話の内容を理解し、文脈に応じた推論を行う。

まとめ

非単調論理は、現実世界の複雑な推論を扱う上で不可欠な概念です。単調論理とは異なり、新たな情報によって以前の結論が修正されることを許容するため、より柔軟で現実的な推論が可能になります。デフォルト推論、アブダクション、知識に関する推論、信念更新など、非単調な推論が必要となる場面は多く、様々な分野で研究と応用が進められています。

参考文献

N. Bidoit and R. Hull (1989) "Minimalism, justification and non-monotonicity in deductive databases," Journal of Computer and System Sciences 38: 290-325.
G. Brewka (1991). Nonmonotonic Reasoning: Logical Foundations of Commonsense. Cambridge University Press.
G. Brewka, J. Dix, K. Konolige (1997). Nonmonotonic Reasoning - An Overview. CSLI publications, Stanford.
M. Cadoli and M. Schaerf (1993) "A survey of complexity results for non-monotonic logics" Journal of Logic Programming 17: 127-60.
F. M. Donini, M. Lenzerini, D. Nardi, F. Pirri, and M. Schaerf (1990) "Nonmonotonic reasoning," Artificial Intelligence Review 4: 163-210.
M. L. Ginsberg, ed. (1987) Readings in Nonmonotonic Reasoning. Los Altos CA: Morgan Kaufmann.
Horty, J. F., 2001, "Nonmonotonic Logic," in Goble, Lou, ed., The Blackwell Guide to Philosophical Logic. Blackwell.
W. Lukaszewicz (1990) Non-Monotonic Reasoning. Ellis-Horwood, Chichester, West Sussex, England.
W. Marek and M. Truszczynski (1993) Nonmonotonic Logics: Context-Dependent Reasoning. Springer Verlag.

関連項目

アブダクション
解集合プログラミング
自己認識論理
信念更新
サーカムスクリプション
閉世界仮説
デフォルト・ロジック
論駁推論
失敗による否定

外部リンク

Stanford Encyclopedia of Philosophy: "Non-monotonic logic" -- by G. Aldo Antonelli.
Anthony Aaby on "Non-monotonic logic."

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