音のない森

音のない森：ポルノグラフィティの新たな境地

2003年8月6日、ポルノグラフィティは11枚目のシングル「音のない森」をリリースしました。前作から半年ぶり、リリースラッシュの幕開けを飾るシングルとして、大きな注目を集めました。このシングルは、それまでのポルノグラフィティ作品とは異なるいくつかの特徴を持っています。

異なる試み：作詞作曲からプロモーションまで

まず特筆すべきは、表題曲「音のない森」の作詞作曲を岡野昭仁が初めて担当したことでしょう。これまでは楽曲制作に他の作家も関わっていましたが、この曲は岡野一人によって生み出された、いわば彼の音楽的アイデンティティを深く反映した作品と言えるでしょう。さらに、表題曲の前後に配置されたインストゥルメンタル曲「awe」と「sonic」も岡野が作曲を担当しており、3曲を連続して聴くことで、より深遠な「音のない森」の世界観を体験できるよう設計されています。

そして、このシングルは、ポルノグラフィティの作品として初めて、初回生産限定盤と通常盤の2形態でリリースされました。初回生産限定盤は、三方背デジパック仕様にエンボス加工が施され、さらに全3曲のミュージックビデオを収録したDVDが付属。音と映像の両面から、「音のない森」という作品を多角的に楽しめるよう工夫が凝らされています。通常盤はその後、レーベルゲートCD2規格やマキシシングル盤でもリリースされましたが、DVD付きの初回盤は再リリースされず、現在では入手困難となっています。

さらに興味深いのは、このシングルではプロモーション活動が行われなかったことです。これは岡野昭仁の希望によるものでした。結果として、シングルの累計売上は、それまでのポルノグラフィティのシングルと比べて低くなりました。これは商業的な成功という点では必ずしも成功とは言えないものの、アーティスト自身の意思を尊重した、ある意味異例のリリースと言えるでしょう。

音楽的深化：楽曲解説

「awe」は「音のない森」への導入部と言えるインスト曲です。タイトルは「オーゥ」と読みます。暗い曲想で、森への畏怖や威厳が表現されています。アウトロでは鼓動のような音が徐々に大きくなり、「音のない森」へと自然につながる構成となっています。

「音のない森」は骨太なリズムと美しいギターワークが際立つロックバラードです。岡野昭仁は、当初は「自分の中に閉じこもって抜け出せない」という心情を表現しようとしたと語っています。しかし、楽曲制作を通じて「希望」のようなものを感じ始め、歌詞の結末も「抜け出せない」から「抜け出そう」へと変化しました。ライブでは、アレンジを加えた演奏がしばしば披露されており、その変化も楽曲の魅力の一つと言えるでしょう。

「sonic」は「音のない森」のアウトロにあたるインスト曲で、「awe」とは対照的に明るく開放的な曲想になっています。聴く者の心を癒すような、希望に満ちたサウンドが特徴です。

まとめ：実験と挑戦

「音のない森」は、ポルノグラフィティにとって、新たな試みと挑戦のシングルでした。岡野昭仁による初の作詞作曲、2形態でのリリース、プロモーション活動の非実施、そして「awe」と「sonic」による3部作構成など、様々な点で従来のスタイルを破っています。商業的な成功とは異なる結果となりましたが、音楽的実験とアーティストの意思を尊重した姿勢は、彼らの音楽キャリアにおいて重要な一歩となったと言えるでしょう。 このシングルは、単なる楽曲の枠を超え、ポルノグラフィティの音楽性とアーティスト像を再定義する転換点となったと言えるのではないでしょうか。

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