飢餓海峡
概要
『飢餓海峡』(きがかいきょう)は、水上勉による
推理小説で、
1962年1月から12月まで週刊朝日に連載されましたが未完のまま終了しました。その後、加筆修正を行い、
1963年に
朝日新聞社から刊行されました。本作は文庫版では
新潮文庫より出版され、
2005年には
河出書房新社から単行本として睨まれています。
この小説は、
戦後間もない日本を舞台に、実際に発生した洞爺丸事故と岩内大火を背景にしています。水上勉の代表作の一つであり、社会派
作家としての転機を迎えた時期に書かれた作品でもあります。登場人物たちには、
戦後の貧困や悲哀が色濃く映し出されています。これまでに
映画や舞台、テレビドラマなど多くのメディアで映像化されています。
あらすじ
物語は、
昭和22年、
北海道岩幌町の質店での強盗殺人事件から始まります。強盗団は大金を奪うと同時に、店主一家を残忍に殺害し、証拠隠滅のために火を放ちます。この火事は町全体に広がり、多くの家を焼き尽くす大火災を引き起こしました。その夜、
北海道で猛烈な台風が襲い、青函連絡船が転覆し、多大な死傷者が出ます。
翌日、函館警察署で遺体の回収が行われ、質店の強盗の仲間であった二人の身元不明の遺体が発見されます。弓坂刑事は、これらの遺体が強盗団の一員であると考え、仲間割れによって殺されたのではないかと推測します。
同じ頃、
青森県の娼婦、杉戸八重は、知らぬ男・犬飼から思いもよらぬ大金を渡され、この金で新たな生活をスタートさせることを決意します。八重は借金を返済し東京に出るものの、犬飼からもらった金と彼を忘れることはできませんでした。
10年後、八重は舞鶴で食品会社を営む樽見京一郎の写真を見て驚愕します。彼は突然、刑余者のために3000万円を寄付した実業家で、八重の恩人である犬飼に似ていました。舞鶴まで出向いた八重ですが、樽見と会った翌朝、海岸で遺体で発見されます。
当初、自殺と思われた八重の死でしたが、味村刑事は彼女が樽見に関連する新聞記事を持っていたことから、彼女の死が偽装殺人であると判明します。彼の執拗な捜査により、台風の夜に起きた殺人事件の全容が明らかになり、貧しい生活を強いられた人々の悲劇が浮かび上がるのです。
映像化
『飢餓海峡』は、
映画、テレビドラマ、舞台など、多数のメディアで映像化されてきました。
1965年には
映画化され、後の1970年代にはテレビドラマとしても放送されました。各時代に応じたキャスティングや演出が話題となり、多様な表現方法で作品が多くの人々に伝えられました。
書籍
本作の初版は
朝日新聞社から
1963年に発行され、文庫版は
新潮社から多数の改版が行われてきました。特に、
2005年の
河出書房新社からの上・下巻構成の版は、作者の晩年に書き直しがなされたもので、多くの読者に親しまれています。
まとめ
『飢餓海峡』は、水上勉の深い洞察が込められた作品であり、
戦後日本の社会情勢を反映したストーリーは今なお多くの人に感銘を与えています。同作の映像化も多彩で、物語の魅力をさまざまな形で人々に届けてきました。