飯盛挺造

飯盛挺造 (いいもり ていぞう)

飯盛挺造は、1851年（嘉永4年）に肥前国多久邑（現在の佐賀県多久市）に生まれ、1916年（大正5年）に65歳で生涯を閉じました。彼は明治時代初期の日本の物理学者であり、特に微量天秤の開発と物理学教育への貢献で知られています。

生い立ちと初期の教育

飯盛は、佐賀藩の藩医である池田玄泰からドイツ語の手ほどきを受けました。その後、医師を目指して上京し、外務省洋語学所でドイツ語を学びました。1874年には東京外国語学校のドイツ語教員となり、翌年には東京医学校（後の東京大学医学部）で助教として物理学を教えました。

ドイツ留学と微量天秤の開発

1884年、飯盛はドイツのフライブルク大学へ留学し、エミール・ワールブルク教授の指導の下で研究に励みました。そこで彼は、反射光を利用する真空式微量天秤を考案しました。この天秤は、ガラスなどの物質に吸着する水分の量を精密に測定することを可能にし、その研究成果は学位論文として認められ、ドクトル・フィロソフィーの称号を授与されました。この功績により、飯盛は「微量天秤の先駆者」として知られるようになりました。

帰国後の教育活動

1887年に帰国した飯盛は、第四高等中学校（現在の金沢大学）の教諭兼教頭に就任しました。その後、東京に戻り、女子高等師範学校（現在のお茶の水女子大学）の教授として教鞭をとりました。また、私立薬学校や済生学舎でも物理学を講義し、物理学の普及に尽力しました。教え子には、日本初の女性理学博士である保井コノがいます。

微量天秤の詳細

飯盛が開発した微量天秤は、その革新性から注目されました。従来の天秤とは異なり、以下の特徴を備えていました。

真空環境の制御: 天秤全体をガラス鐘で覆い、真空ポンプで排気することで、真空から大気圧までの任意の圧力に設定できます。
温度制御: エーテルの気化速度を調節することで、雰囲気の温度を調節できます。
* 高感度測定: ガラス鐘の一部に設けられた窓から、竿に取り付けた鏡に光を当て、その反射光を尺度に投影することで、微小な傾きを拡大して読み取ることができます。これにより、質量の時間的変化を連続的に測定することが可能になりました。

この微量天秤によって、密度、原子量、吸着、吸収、膨張係数など、さまざまな物理量の研究が容易になり、科学研究に大きな貢献を果たしました。

その他の業績

飯盛は教育者としてだけでなく、多くの著書や論文も発表しました。『物理学』は、当時の医学・薬学関係の学生を中心に広く利用され、長年にわたり物理学の教科書として使用されました。また、日本の放射化学の先達である飯盛里安の養父であり、岳父でもありました。

日東十客と栄典

飯盛は「日東十客」の一人としても知られています。その功績が認められ、勲六等瑞宝章、勲五等瑞宝章、勲三等瑞宝章を授与されました。

晩年

晩年は軽い脳溢血を患いましたが、教育活動を続けました。1910年には東京女子高等師範学校の校長代理を務めましたが、病気の再発により公職を辞任しました。その後、病状が悪化し、1916年に生涯を閉じました。

飯盛挺造は、その独創的な研究と教育への情熱によって、日本の物理学の発展に大きく貢献した人物です。

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