香月弘美

若きスターの悲劇：宝塚歌劇団香月弘美さんの事故死

1958年4月1日、宝塚大劇場で上演中だった宝塚歌劇団月組公演「春の踊り 花の中の子供たち」において、娘役スターの香月弘美さんが、舞台機構の回転軸に巻き込まれるという痛ましい事故で亡くなりました。享年21歳。

香月さんは神奈川県藤沢市出身。湘南白百合学園高校を中退し、親友である松島三那子さんの影響で宝塚音楽学校に入学しました。愛称は「ヒロエちゃん」。1954年4月、宝塚歌劇団に入団し、持ち前の明るさと才能で人気を集める娘役として活躍していました。

事故の発生と詳細

事故は公演第12場「トランプの国」の場面で発生しました。この場面では、恋人同士のハートの6（男役）とハートの7（娘役）が、キングとクイーンの怒りに触れ、セリで舞台下へ沈んでいく演出がなされていました。

当日、ハートの7役を演じるはずだった日夏有里さんが風邪で休演したため、香月さんが代役を務めていました。そして、香月さんの相手役、ハートの6を演じていたのは、なんと湘南白百合学園時代の同級生である松島三那子さんでした。

3月31日の昼夜公演、そして4月1日昼公演は問題なく終了しましたが、午後6時25分頃、悲劇は起こりました。セリが降下を始める直前、香月さんの衣装の裾が回転軸に巻き込まれてしまったのです。衣装には、裾を広げるための金属製のベルトが取り付けられており、これが回転軸に絡まり、香月さんはセリに巻き込まれ、身体が切断され、即死しました。

当時、相手役の松島さんは、早変わりをするためにセリが降下し切る前に奈落に飛び降りていました。背後から聞こえた悲鳴と異様な音に気づき、振り返った松島さんは、セリのシャフトに巻き付いた香月さんの姿を見たのです。

松島さんは、この時の衝撃的な光景と、香月さんの死を目の当たりにしたことによる精神的なショックで、しばらく記憶を失ってしまったと証言しています。

事故調査と安全対策

警察による調査が行われ、宝塚歌劇団の舞台機構の安全管理に問題があったと指摘されました。兵庫労働基準局は、香月さんの死を労働災害と認定し、宝塚歌劇団に安全対策の徹底を警告。セリの安全装置の設置、衣装の材質変更、セリの降下速度の低下などが指示されました。しかし、宝塚歌劇団・大劇場関係者が刑事責任を追及されたという報道はありませんでした。

事故後と慰霊

事故後、公演は翌日から再開されました。香月さんの密葬は4月3日、宝塚歌劇団葬は4月11日に行われ、遺骨は実家へ送られました。5月20日には、宝塚音楽学校校庭に慰霊碑が建立されました。慰霊碑には、柳原白蓮が香月さんの死を悼んで詠んだ歌が刻まれています。毎年4月1日には、宝塚音楽学校の生徒たちが慰霊碑に献花を行っていました。

記憶と伝承

この事故は、公式記録からは抹消されていますが、関係者の証言や、事故を経験した者たちの回想録によって、その悲劇は語り継がれています。この事故は、舞台芸術における安全管理の重要性を改めて認識させる、痛ましい教訓となっています。 香月弘美さんの冥福を祈りつつ、この悲劇が繰り返されないよう、安全への意識を高めていくことが大切です。

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