香櫨園遊園地

香櫨園遊園地：近畿を代表する遊園地の栄光と短い歴史

1907年、兵庫県武庫郡大社村（現在の西宮市）に、近畿地方最大規模を誇る遊園地「香櫨園遊園地」が開園しました。この遊園地は、大阪の商人である香野蔵治氏と、櫨山喜一（または櫨山慶次郎）氏によって設立されました。両氏の姓の一文字ずつを組み合わせ、「香櫨園」という名前が付けられました。兄弟説もある両氏の連携により、この遊園地は誕生しました。

香櫨園遊園地は、現在の阪神電気鉄道香櫨園駅ではなく、駅から北へ徒歩10分ほどの場所に位置していました。現在の西宮市羽衣町、霞町、松園町、相生町、雲井町、殿山町一帯に、約8万坪という広大な敷地を誇っていました。

開園当初から阪神電気鉄道も経営に関与し、ウォーターシュートやメリーゴーランド、博物館、動物園、さらには音楽堂といった、当時としては非常に珍しい多様な施設が揃っていました。来園者は多く、近畿地方における一大レジャーランドとして人気を博しました。

特筆すべき出来事として、1910年秋には、日本で初めてとなる日米野球が開催されました。わずか2週間で急造された野球グラウンドで、早稲田大学と、当時アメリカ中西部最強と言われたシカゴ大学が3日間にわたって熱戦を繰り広げました。このイベントは、遊園地の知名度をさらに高める一因となりました。

しかし、開園当初の盛況とは裏腹に、香櫨園遊園地は次第に客足が減少し始めます。開園からわずか3年で衰退の兆候が見え始め、経営状況は悪化していきました。地主の交代といった様々な問題も重なり、結局、開園から6年後の1913年9月に閉園という結末を迎えることになりました。

短いながらも華々しい歴史を残した香櫨園遊園地は、その後の西宮市の発展に貢献しただけでなく、文化面にも影響を与えています。特に注目すべきは、1908年に発表された『阪神電車唱歌』です。この歌には、香櫨園遊園地が登場しており、当時の盛況ぶりをしのばせる歌詞となっています。歌のフレーズ『廣田官幣大社をも　拝して立ちよる香櫨園　四季の眺めは備はりて　新たに開けし遊園地』は、遊園地の魅力を端的に表現しています。

また、香櫨園遊園地の存在は、他の遊園地の設立にも影響を与えました。1910年に開業した京阪電気鉄道は、大阪府寝屋川市に遊園地を建設する際、香櫨園遊園地の成功例を参考に「香里遊園地」と命名しました。この遊園地は後に枚方市に移転し、現在のひらかたパークへと発展しています。駅名も香里駅として開業しましたが、1938年に香里園駅に改称されました。香里遊園地跡地には、京阪電鉄の寄進により、1934年に成田山不動尊が建立されています。

このように、香櫨園遊園地は、その短い歴史の中で、多くの来園者を楽しませ、近畿地方の遊園地発展に貢献しただけでなく、文化や地名にもその名を残す、重要な存在だったと言えるでしょう。その栄光と、閉園という幕切れは、近代日本の遊園地史において、興味深い一例として記憶されています。

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