馬と少年

『馬と少年』（原題：The Horse and His Boy）は、C.S.ルイスによる児童文学『ナルニア国ものがたり』シリーズを構成する7作品の一つであり、1954年に出版されました。シリーズにおける執筆・出版順では5番目ですが、ナルニア年代記における時系列では『ライオンと魔女』に続く3番目の物語として位置付けられています。

物語の舞台は、魔法が実在し、動物たちが言葉を話し、神話的な生き物や妖精たちが暮らす異世界、ナルニアとその友好国であるアーケン国です。しかし、物語の中心となるのは、ナルニアとは異なる文化を持つカロールメン国です。カロールメンはアラビアン・ナイトを思わせる雰囲気を漂わせる国で、住人は浅黒い肌を持ち、男性はターバンを巻き、女性はヴェールを身にまとっています。ナルニアにおいて神的な存在であるアスラン（ライオン）とは異なり、カロールメンの神は「タシ」と呼ばれ、首都は「タシバーン」です。

主人公は、カロールメンの漁師に育てられたシャスタという少年です。彼は実はアーケン国の王子コルであり、幼児期に誘拐されて漁師のもとで育ちました。しかし、やがて彼は貴族に売られる危機に瀕し、ナルニア出身の馬ブレーと共に逃げ出すことを決意します。ブレーは、ナルニアで生まれたものの、かつて誘拐され、カロールメンにいた馬です。

彼らの旅は、カロールメンの貴族の娘であるアラビスとの出会いを経て、さらに複雑さを増していきます。アラビスは、政略結婚を避け、家出をしていました。彼女はナルニア出身の馬フインと共に旅をしており、シャスタとブレーと合流します。

物語には、その他にも多くの魅力的な登場人物が登場します。カロールメンの王ティスロック、ナルニアへの侵攻を企む王子ラバダシ、アラビスの許婚であるアホーシタ・タルカーン、そしてナルニアの王と女王であるペベンシー家の4兄弟（ピーター、スーザン、エドマンド、ルーシー）、そしてナルニアの創造主であるアスランなどです。

シャスタとブレー、そしてアラビスとフインは、カロールメンの都タシバーンを通過する際に、ラバダシ王子がスーザン女王への求婚を断られたことに激怒し、ナルニアへの侵攻を計画していることを知ります。彼らは、この危機をナルニアに伝えるため、危険な砂漠の道を北へと急ぎます。彼らの旅路は困難を極め、常に危険が潜んでいますが、彼らの勇気と友情、そしてアスランの存在が、彼らの旅を導きます。

物語は、異なる文化を持つ二つの国の対比、友情と冒険、そして勇気と希望を描いています。馬と少年、そして少女の旅は、読者に深い感動と興奮を与え、ナルニア世界の奥深さを改めて感じさせてくれます。日本語版は、岩波書店、光文社古典新訳文庫、角川文庫などから複数の翻訳版が出版されています。それぞれの翻訳版で、異なる魅力が楽しめるでしょう。

この物語は、子供だけでなく大人も楽しめる、奥深い内容と美しい描写に満ちた一冊です。魔法と冒険、友情と勇気、そして希望に満ちた物語は、読者の心に長く残ることでしょう。様々な版があり、それぞれに魅力があるので、お気に入りの一冊を見つけるのも楽しいかもしれません。

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