馬を売る女

『馬を売る女』

『馬を売る女』は、著者松本清張による1977年に発表された小説で、日本経済新聞に連載されたのち、文藝春秋から中短編集として刊行されました。この小説は、競馬の世界を舞台に、ある女性秘書の行動が引き起こす複雑な人間関係と心理劇を描いています。物語は、日東商会の社長、米村重一郎が中心となって進行し、彼の秘書である星野花江の盗聴行為から展開される騙し合いがメインテーマです。

あらすじ

物語は、米村重一郎が競馬にのめり込む姿から始まります。彼は電話で馬主仲間と情報をやり取りしており、その重要な会話は秘書の星野花江によって盗聴されていました。星野は、秘書としての能力を駆使し、集めた競走馬の情報を基にして会員制の競馬予想ビジネスを展開。これを手段として、将来に向けた資金獲得を目論みます。

しかし、星野花江の私生活は寂しく、恋愛関係が持てない不器量な女性です。彼女は孤独感を抱えて生きており、ある日、会社の社長である米村が彼女の行動に気づき、調査を依頼することになります。ここから物語はさらに緊張感を増していきます。

調査を担当する八田英吉は、米村からの指示で虚偽の競走馬情報を流し、星野の予想が外れるように仕向けます。このことがきっかけで、星野は徐々に自信を失い、さらには八田との関係が深まっていく中で、思わぬ展開を見せていきます。

八田は、経済的に困窮している星野に近づき、彼女の資金を借りるようになります。星野は初めての恋愛感情を経験するも、八田による金銭的な圧迫によって次第に追いつめられていきます。彼女の心情は複雑で、愛と金銭の板挟みに苦しむことに。しかし、八田は返済を一向に行わず、どんどん深みに嵌まっていく星野を見て、彼女への極端な思いを抱くようになるのです。

この物語の舞台裏には、競馬や情報の裏取引があり、登場人物たちはそれぞれの目的を持っています。星野は、実在の秘書をモデルにしたということで、物語にはリアリティを感じさせる背景があります。

テレビドラマ

『馬を売る女』は1978年と1982年の2回、テレビドラマとしても制作されています。1978年版は、TBSの「東芝日曜劇場」枠で放送され、視聴率20.2％を記録。倍賞千恵子や財津一郎といった当時の名優が出演し、物語を彩りました。

1982年版も同じくTBSで放送され、多くの視聴者に親しまれ、特にサスペンス要素が強調された構成が好評を博しました。

このように『馬を売る女』は、松本清張の独特な視点で描かれる人間の心理や、競馬の裏側を見事に描写した作品です。競馬に関心がある人はもちろん、人間ドラマを楽しみたい方にもお勧めの作品です。

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