馬部隆弘

馬部隆弘：戦国期と偽文書に挑む歴史学者

馬部隆弘氏は、1976年兵庫県生まれの日本の歴史学者である。現在は中京大学文学部教授として、戦国期の畿内政治史に関する研究を精力的に行っている。

氏の専門は戦国期の畿内政治史であるが、特に注目を集めているのは、京都府木津川市山城町椿井を起源とする椿井政隆が作成したとされる偽文書「椿井文書」に関する研究である。

馬部氏は、熊本大学文学部史学科卒業後、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程を修了。枚方市や長岡京市などで歴史資料の整理や調査に携わった経験を持つ。2007年には大阪大学より博士（文学）の学位を取得し、その論文は「戦国期城郭政策論」であった。その後、大阪大谷大学で専任講師、准教授を経て、2023年に中京大学教授に就任した。

椿井文書研究：定説への挑戦と反発

馬部氏の研究は、歴史研究における定説を覆す可能性を秘めている。椿井文書は、地域の歴史において長らく重要な史料とされてきたが、馬部氏は、その偽作性を示す研究成果を発表した。この研究は、歴史認識の転換を促すものであり、学術的な貢献は多大である。しかし、その研究発表は、椿井文書を歴史的根拠としてきた地域住民や関係者からの強い反発を招いたという。

自身の研究活動について、馬部氏は「私の説明を聞いて偽物だと納得してくださる方が大多数でしたが、椿井文書に基づく歴史が定着している地域で、かつその歴史を多方面に語ってきた方からは反発が激しかった」「だいたいの場合は、理論的に説明しても聞く耳を持ってくれないです。論文を発表した当初はまだ大学院生だったので、著名なあの先生もこう言っているのでこっちのほうが正しいはずだと反論されたり。椿井文書に関する最初の論文は、ちゃんとした査読誌に掲載されているんですが、おまえの勝手な思い込みだとか言われましたね」と回顧している。この言葉からは、学問的探究の困難さと、歴史認識をめぐる葛藤が伝わってくる。

多様な研究活動：著書と史料編纂

馬部氏の研究活動は多岐にわたる。数多くの著書を発表しており、『戦国期細川権力の研究』（吉川弘文館）、『由緒・偽文書と地域社会　北河内を中心に』（勉誠出版）、『椿井文書 - 日本最大級の偽文書』（中公新書）などが代表作として挙げられる。『椿井文書 - 日本最大級の偽文書』は、円城塔氏と長薗安浩氏による書評も掲載され、注目を集めた。

さらに、史料編纂にも積極的に関わっており、『招提村片岡家文書の研究』（枚方市立中央図書館市史資料室）、『楠葉台場跡（史料編）』（枚方市教育委員会）、『茄子作村中西家文書の研究』（枚方市立中央図書館市史資料室）など、地域の歴史解明に貢献する多くの史料を編纂している。また、『枚方の歴史』『近畿の城郭』『近畿の名城を歩く』シリーズなど、共著も多く手がけている。

馬部隆弘氏の研究は、歴史学における厳密な検証と、地域社会との複雑な関わりを示す好例である。その探究心と、歴史を正しく理解しようとする姿勢は、未来の歴史研究にも大きな影響を与えるだろう。

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