駅路 (松本清張)

『駅路』

松本清張による短編小説『駅路』（えきろ）は、1960年に『サンデー毎日』に初めて掲載された作品で、1961年には短編集として文藝春秋新社から出版されました。この物語は、行方不明になった銀行の営業部長、小塚貞一の謎を巡る事件を描いています。

あらすじ

小塚貞一は、某銀行の営業部長を定年退職した後、秋のある日、旅行用の荷物を持って家を出たまま行方不明になります。彼の家族は外見上は平穏であり、子供たちも成長し、一人は結婚を果たしています。人生の大半を送り、安定した境遇にあるように見える小塚に、なぜ自ら家を離れる決断を下したのか。自殺の理由は考えにくく、行方不明となった背景にある複雑な事情が、相対的に浮き彫りになります。警察は、捜索願を受けて呼野刑事と北尾刑事が調査に乗り出しますが、捜査の過程で明らかになる家族の秘密や人間関係が、物語に深みを与えています。

登場人物

• - 小塚貞一: 某銀行の営業部長として定年を迎えたが、行方不明に。
• - 呼野刑事: 48歳、行方不明となった小塚を捜索する古参の刑事。
• - 北尾刑事: 若手の独身刑事で、呼野とコンビを組む。
• - 小塚百合子: 小塚の妻。
• - 福村慶子: 銀行の元女子行員で、小塚の行方不明に何らかの関係があるようだ。
• - 福村よし子: 福村慶子の従妹で、東京に住んでいる。
• - 山崎: 福村よし子の情夫。

エピソード

著者はこの作品を、人生の終わりに近づいた初老の憧れをテーマとしていると語っています。作品中では、呼野刑事がゴーギャンの絵についての言及をし、彼がこの作品にどう関わっているかについて考えさせられる部分もあります。近代文学の研究者によれば、このゴーギャンに関する言葉は実際の発言として証明されていないとされていますが、物語に含まれるテーマとの関連性を考えるうえで重要な要素です。

また、家出には「家族が困らないような財産」を残す必要があるという、小塚の心理が示唆されています。これは、家族を思うがゆえの複雑な感情や責任感の表れです。

テレビドラマ化

『駅路』は、4度もテレビドラマに映像化されています。1962年の初回放送を皮切りに、その後の1977年版や1982年版、そして2009年版では、それぞれ異なるアプローチで物語が再構築されました。特に1977年版は、向田邦子脚本で制作され、視点を変えて登場人物の関係性を深堀りし、よりドラマチックな展開を見せています。2009年版では、松本清張生誕100年と向田邦子生誕80年を記念した特別な作品として放送され、時代背景や人物関係が新たに描かれました。

このように『駅路』は、単なるミステリー作品に留まらず、家族や人生に対する深い洞察を提供しており、時代を超えて多くの人々に影響を与え続けています。

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