駐日フィリピン大使館公邸

駐日フィリピン大使館公邸：歴史と文化が交差する場所

東京都千代田区に位置する駐日フィリピン大使館公邸は、駐日フィリピン大使の住居として使用されています。しかし、その歴史を紐解くと、単なる大使の邸宅という枠を超えた、日本とフィリピンの深いつながりを示す貴重な存在であることがわかります。

安田財閥の邸宅からフィリピンへ

この洋館は、元々1935年に安田財閥の創始者である安田善次郎の次男、安田岩次郎によって建てられました。岩次郎は画家であり、邸宅は彼の趣味や美意識が反映された、スペイン風を基調とした美しい建物でした。特筆すべきは、芸術家のオノ・ヨーコが幼少期に3年間この邸宅で過ごしたことです。彼女の創造性の源泉の一つとなったのかもしれません。

第二次世界大戦の影響で安田家の経済状況が悪化すると、1944年にフィリピンのホセ・ラウレル大統領に売却されました。以来、この建物はフィリピン大使公邸として、日本におけるフィリピンの外交活動を支える重要な拠点となっています。

「フィリピン外交の至宝」

公邸は「フィリピンの外交活動の至宝」とも呼ばれ、2013年にはフィリピン国外における国家的歴史建造物の第1号に指定されました。これは、この建物がフィリピンにとって、文化的な価値だけでなく、外交的にも非常に重要な意味を持つことを示しています。

2009年には、老朽化を理由に取り壊して高層マンションを建設する計画が持ち上がりましたが、反対運動が起こり、計画は中止されました。この出来事は、公邸が多くの人々にとってかけがえのない存在であることを改めて認識させるものでした。

建築様式

望楼付きの2階建ての建物は、スペイン風の建築様式を基調としつつ、ルネサンス風、ゴシック風、そして日本の和風建築の要素も取り入れられています。国産の資材が使用され、富山から運ばれた瓦も用いられています。内装は安田岩次郎の息子の趣味でデザインされたそうです。

玄関ロビーには、フィリピンの英雄であるホセ・リサールとホセ・ラウレル大統領の胸像が飾られています。1階には客をもてなすための「青の間」や食堂、音楽室があり、2階は大使とその家族の居住空間となっています。庭園には、1994年に正仁親王妃華子が植樹した桜の木があり、春には美しい花を咲かせます。

大衆文化への影響

2015年には、フィリピンの歴史家アンベス・オカンポによって、公邸の歴史に関する書籍が出版されました。この本は、日本とフィリピンの国交樹立60周年を記念して出版され、公邸の歴史的、文化的価値を広く伝える役割を果たしています。

駐日フィリピン大使館公邸は、建築、歴史、文化、外交など、様々な側面から見て非常に興味深い建物です。東京に訪れた際には、その存在に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

参考文献

フィリピン大使館（公式）
千代田遺産 フィリピン大使館公邸
* フィリピン大使館公邸 - 千代田区観光協会

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