骨壺の風景

『骨壺の風景』

松本清張による短編小説『骨壺の風景』は、1980年2月に公刊された作品で、同年10月には彼の短編集『岸田劉生晩景』に収められています。この物語は、作者の祖母カネに対する深い想いと、過去に埋もれた家族の記憶を掘り起こす旅を描いています。

あらすじ

物語は、主人公が祖母の死を思い起こすことから始まります。それは昭和初期、大雪が降る中での出来事でした。主人公の父、峯太郎が貧しい生活を送っていた時期に、祖母カネが逝去してしまいます。彼女の遺骨は墓に埋葬されることもなく、近所の寺に一時的に預けられたままとなっています。この骨壺が気になる主人公は、夢の中で「死人の村」を訪れることから思考を巡らせます。然而、まさにその夢が、彼を過去に対する特別な想いへと導くきっかけとなります。

主人公は、骨壺があった寺院の名前を思い出せずにいましたが、その後の調査により、その寺が大満寺であることが明らかになります。戦後に場所を移動した大満寺には祖母カネの名前が過去帳に記されており、しかし、残念ながら骨壺はすでに処分されたと知らされます。今では、彼女の遺骨は境内の石塔の下に埋葬されていることがわかりました。

骨壺を持って帰れない以上、せめて祖母の位牌を持ち帰り、両親と共に埋葬したいとの思いから、主人公は九州へ向かう決意をします。大満寺で位牌を受け取った後、彼はかつて祖母と共に過ごした場所や家族との思い出を辿ります。清水の火葬場を訪れ、子供の頃に住んでいた中島や紺屋町、さらには下関の旧壇ノ浦や田中町を再訪し、忘れかけていた記憶が次々と呼び起こされていきます。

エピソード

本作が発表される少し前の1980年2月17日、松本清張は祖母カネの法要を東京の永福寺で行っています。この法要の様子は、彼の『清張日記』に記されており、祖母が亡くなった日を思い出しながら、特別な意味を込めて祖母への敬意を表している様子が伝わります。

作品に関する解釈も多岐にわたります。北九州市立松本清張記念館の学芸担当者、中川里志は、この作品が祖母への深い愛情や追慕が色濃く表れていると評価し、主人公の夢に登場する祖母の姿には、後半のストーリー展開が反映されていると指摘します。また、中国文学研究者の藤井省三は、作中に登場する年齢設定の虚構性を指摘し、松本清張の複雑な感情に基づく解釈を提唱しています。

『骨壺の風景』は、失った家族との思い出を振り返ることで、愛情や家族の絆がどれほど深いものであったかを再認識させてくれる、非常に感慨深い作品です。

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