高井ゆと里

高井ゆと里：哲学と生命倫理、そしてアイデンティティの探求

高井ゆと里氏は、1990年生まれの哲学者であり、群馬大学情報学部准教授として活躍されています。専門は、ハイデガー研究を中心とした西洋哲学、生命倫理学、そして研究倫理です。東京大学文学部卒業後、同大学院人文社会系研究科で修士・博士課程を修了し、博士（文学）の学位を取得しています。

幼少期から「意味の分からない世界のルール」に疑問を抱き、倫理的な問いを常に抱いてきたという高井氏。例えば「なぜ人は盗んではいけないのか」「お金に価値があるのはなぜか」といった根本的な問いに向き合う中で、哲学への道を歩み始めました。また、自身のジェンダーアイデンティティについても深く悩み、自ら「ノンバイナリー」であることを公表しています。

東京大学在学中は熊野純彦ゼミに所属し、卒業論文ではハイデガーの代表作『存在と時間』をテーマに研究。以来、ハイデガー研究を専門として、数々の論文や著書を発表しています。大学卒業後は、千葉大学や埼玉医科大学などで非常勤講師を務め、国立がん研究センター特任研究員、石川県立看護大学講師を経て、2022年4月より群馬大学情報学部准教授に就任しました。

2021年11月にノンバイナリーであることを公表して以降も、その経験に基づいた活動や著作を通して、社会に貢献しています。ショーン・フェイ著『トランスジェンダー問題』の翻訳にも携わり、翻訳者として日本のトランスジェンダーへの理解を深める活動にも貢献しています。翻訳のあとがきでは、シスジェンダーでない人々が日本のトランスジェンダーのために翻訳を行うことの重要性を訴えています。

研究と著作活動

高井氏の研究は、ハイデガー哲学を基盤としながらも、生命倫理や研究倫理といった現代社会の重要な課題にも深く関わっています。プラセボ対照試験の倫理的問題、妊婦の臨床研究からの排除、希少疾患と医療資源分配の正義、そしてトランスジェンダーの性別承認法における不妊化要件など、幅広いテーマについて学術論文を発表しています。これらの論文は、医学哲学医学倫理、生命倫理、実存思想論集といった専門誌に掲載されており、高い評価を得ています。

著作活動においても、多様な視点を取り入れた作品を発表しています。単著『ハイデガー：世界内存在を生きる』では、ハイデガー哲学を分かりやすく解説。編著『トランスジェンダーと性別変更：これまでとこれから』では、トランスジェンダー問題に関する現状と将来展望を論じています。共著としては、周司あきら氏との共著『トランスジェンダー入門』『トランスジェンダーQ＆A：素朴な疑問が浮かんだら』などを通してトランスジェンダーに関する理解を促進する活動も積極的に行っています。また、翻訳においても、ショーン・フェイ著『トランスジェンダー問題』や、テレサ・ソーン作『じぶんであるっていいかんじ：きみとジェンダーについての本』などを手がけ、多様な人々の声や考えを届ける役割を担っています。

まとめ

高井ゆと里氏は、哲学、生命倫理、研究倫理の専門家として、そしてノンバイナリー当事者として、多様な視点から社会に貢献しています。その研究活動と著作活動は、現代社会の抱える課題に対する鋭い洞察と、深い倫理観に基づいており、今後の活躍にも期待が高まります。

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