高円寺平和劇場

高円寺平和劇場

高円寺平和劇場（こうえんじへいわげきじょう）は、東京都杉並区高円寺に、第二次世界大戦終結直後の1946年（昭和21年）1月から1989年（平成元年）3月にかけて存在した歴史ある映画館です。「高円寺平和」「高円寺平和座」「高円寺日活平和」といった名称で呼ばれることもありました。

沿革と変遷

この映画館は、1946年1月、国鉄（現在のJR東日本）高円寺駅の北口からほど近い、庚申通り沿いの高円寺七丁目（現在の高円寺北三丁目）に開館しました。開館当初の経営は三亜興行で、当時の定員数は550名と記録されています。特筆すべきは、開館から数年間はセントラル映画社（CMPE）が独占配給するアメリカ映画を最速で上映する一番館として運営されていた点です。これは戦後間もない占領期における映画配給の特殊な状況を反映したものでした。支配人は米山信一氏が務めていました。

1954年（昭和29年）9月、映画館の経営権は東亜興行株式会社へと引き継がれます。東亜興行は、後に新宿・歌舞伎町に進出し、多数の映画館を展開する企業ですが、高円寺平和劇場は、1949年に阿佐谷オデヲン座を開業して創業した高橋康友氏率いる同社にとって、吉祥寺オデヲン座とほぼ同時期に手掛けた6番目の映画館となりました。経営が東亜興行に移った後、高円寺平和劇場は「オデヲン」系列の一員として、ロードショー公開から2週間遅れで上映する洋画（外国映画）の三番館へとその上映スタイルを変えました。この時期の定員数は446名となり、開館当初から減少しましたが、支配人は引き続き米山信一氏が務めています。

高円寺地域の映画館の中で

高円寺平和劇場が存在した約43年間は、高円寺地域の映画館事情が大きく変動した時代でもありました。戦前の昭和初期には高円寺館のみだったものが、戦時中の1942年までには高円寺映画劇場、興風映画劇場が加わり3館体制となっていました。戦後、高円寺平和劇場が開館した後も、戦前からの高円寺映画劇場に加え、1953年開館の高円寺エトアール劇場（後の高円寺東映）、杉並映画劇場などが登場し、1954年頃には高円寺駅周辺に4つの映画館が並び立ちました。さらに1960年頃には、エトアール劇場の傍にムービー山小屋も加わり、計5館が存在するなど、映画文化が栄えた時期がありました。しかし、時代の流れと共に映画館は徐々に姿を消していきます。杉並映画劇場は1960年前後、高円寺映画劇場は1970年前後に閉館。そして、1981年には高円寺東映とムービー山小屋も閉館し、その跡地は商業施設（西友高円寺店）となりました。

こうして、高円寺地域で営業を続ける映画館は、高円寺平和劇場ただ一つとなります。この頃には、平和劇場は日活ロマンポルノ作品の封切館として運営されていました。しかし、日活がロマンポルノの製作・配給を1988年（昭和63年）6月末で打ち切ったことに伴い、翌1989年3月7日、高円寺平和劇場はその歴史に幕を閉じました。閉館間際の定員数は223名と、最盛期から大幅に減少していました。

閉館後

閉館後、高円寺平和劇場の跡地はしばらくそのままとなっていましたが、2001年度に杉並区によって買収されることが決定しました。そして、2003年1月には、その跡地に杉並区営の「高円寺北自転車駐車場」が竣工され、現在に至っています。

高円寺平和劇場は、戦後復興期におけるアメリカ映画専門館としての役割、東亜興行オデヲン系列の洋画三番館としての時代、そして地域の他の映画館が消えていく中で最後まで残り、日活作品を上映し続けた末期まで、約43年にわたり高円寺の街の文化の一端を担いました。その木造一階建ての建物はもうありませんが、地域の記憶の中にその存在は刻まれています。

※所在地: かつて東京都杉並区高円寺七丁目999番地。現在の東京都杉並区高円寺北三丁目20番23号 高円寺北自転車駐車場。

参考文献:
映画年鑑、映画便覧、日本映画事業総覧、キネマ旬報社「映画館のある風景 昭和30年代盛り場風土記・関東篇」など

関連事項:
東亜興行、セントラル映画社、高円寺、日活ロマンポルノ

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