高松和傘

高松和傘（たかまつわがさ）は、香川県の県都である高松市で生産されている伝統的な和傘です。香川県の伝統的工芸品にも指定されており、地域の文化と歴史を伝える工芸品として知られています。

歴史的背景

高松における和傘の生産は、明治時代の半ば、具体的には1887年（明治20年）から1897年（明治30年）にかけて本格化したと伝えられています。この時期、岐阜県で盛んに作られていた日傘、いわゆる「岐阜和傘」の技法、特に絵付けの方法や色柄の意匠が取り入れられたことが、高松和傘の発展に影響を与えたとされています。ただし、高松の地にはそれ以前から和傘を作る技術が存在した可能性も指摘されており、明治期に岐阜の要素が加わることで、新たな生産体制が確立されたと考えられます。

産地の隆盛

当時の高松では、傘の主要な材料となる高品質な手漉き和紙が生産されていました。また、香川県および徳島県からは、傘の骨として利用される良質な竹が豊富に入手できました。これらの恵まれた材料を背景に、高松は一時期、国内有数の和傘産地へと成長を遂げました。特に大正時代には生産量がピークに達し、多くの人々が高松和傘の製造に携わっていました。

衰退と現状

太平洋戦争後も、高松には100軒近くの和傘生産業者が活動していましたが、生活様式の変化や安価な洋傘の普及などにより、和傘の需要は次第に減少していきました。それに伴い、生産業者の数も激減し、2012年時点では、高松市宮脇町にある一軒の業者のみが、その伝統を守り続けていることが確認されています。和傘の製造に必要な骨や紙といった材料を供給する業者は、現在、四国地方にはほとんど残っておらず、現存する生産者は、過去に苦労して確保し、備蓄しておいた材料を大切に使用しながら製作を行っているのが実情です。材料の確保は、伝統を守る上で大きな課題の一つとなっています。

製法の工夫と特徴

高松和傘の製造における大きな特徴の一つは、「胴紙（どうがみ）」と呼ばれる円形の和紙を使用する簡略化された製法です。一般的な和傘では、細長い形状の和紙を竹骨に一枚ずつ丁寧に張り継いで傘の面を形成しますが、高松和傘では、あらかじめ円形に加工された胴紙を張ることで、生産工程の一部を効率化しています。この工夫は、安価で大量に生産することを目的として導入されたものであり、高松和傘がかつて多くの人々に利用された背景にある要因の一つと言えます。しかし、この製法の中にも、美しく丈夫な傘を作り上げるための職人の繊細な技術が息づいています。

主な種類

高松和傘には、主に日常使いや装飾用の「日傘」と、伝統芸能や踊りなどで使用される華やかな「舞傘」などの種類があります。それぞれの用途に応じて、骨の構造や紙の厚さ、絵柄などが異なり、職人の高い技術によって生み出されています。

今後の展望

材料調達の困難さや後継者不足といった厳しい状況に直面しながらも、高松和傘は、現存する職人たちの情熱と努力によって、その貴重な技術と美しさが守られています。香川県を代表する伝統工芸品として、この先もその灯が絶えることのないよう、新たな担い手の育成や、現代の生活に合わせた形での活用の模索が期待されています。

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