高速再突入実験機

高速再突入実験機（DASH）

高速再突入実験機（DASH）は、宇宙科学研究所（ISAS）が開発した、大気圏再突入技術を実証するための実験機です。これは、将来的な月や惑星からのサンプルリターン計画を見据え、惑星間空間から直接大気圏への再突入を可能にする技術の研究の一環として位置付けられています。DASHは、静止衛星の打ち上げに利用されるピギーバック衛星として計画され、静止遷移軌道（GTO）から再突入する形で運用されました。

実験の概要

具体的には、再突入角度を調整することで、惑星間軌道からの再突入と同等の熱環境である約10MW/m2を実現することを目指しました。実験では、第4近地点付近での周期調整モータ（DFM）による誤差修正、第7近地点通過後の軌道離脱モータ（DOM）を利用した軌道離脱といった二回の軌道修正が実施される予定でした。最終的には、モーリタニアのサハラ砂漠上空の高度200kmで再突入し、高度10kmでカバーを分離、その後パラシュートを展開して滑らかに着陸する計画です。

運用状況

2002年2月4日、日本時間11時45分にH-IIAロケット2号機によって打ち上げられました。予定では、リフトオフから30分18秒後にデュアルランチャー用のフェアリングから分離されるはずでした。しかし、同日の17時40分から18時40分の間にチリのサンティアゴ局で監視したところ、搭載機器は正常に機能しているものの、フェアリングから分離されていないことが確認されました。さらにその後、内之浦局での観測においても未分離状態が確認され、分離コマンドを送っても成功しませんでした。

DASHのミッションはこの分離失敗によって中止され、2009年にはDASH-2計画が構想されたものの、具体的な動きはなかったとされています。

分離失敗の原因

分離失敗の要因については、宇宙開発事業団（NASDA）の協力を得て設置された調査特別委員会にて詳細な検討が行われました。結果、製造段階における製造図面の誤りが原因であり、信号伝達ケーブルの誤配線が特定されました。この誤配線は、製造過程での図面の検査が社内で行われ、納入時に必要な照合が行われなかったため、事前に発見されなかったのです。この事故を受けて、再発防止策として外部の専門家から成るタスクフォースが設立され、衛星開発や試験体制についての評価が実施されました。

まとめ

高速再突入実験機DASHは、単なる技術実証にとどまらず、失敗から得た教訓を衛星研究に活かす重要な一歩となりました。今後の宇宙開発に向けたこの経験は、ますます重要性を増していくことでしょう。

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