高雄ビル火災

2021年10月14日未明、台湾南部の主要都市である高雄市塩埕区において、未曽有の大規模火災が発生しました。この火災は、地元では「城中城」（シティーセンタービル）と呼ばれる複合ビルで起こり、多くの尊い人命が失われる悲惨な結果となりました。少なくとも46人が死亡し、41人が負傷するなど、甚大な被害を出したこの火災は、台湾の近代史における最も犠牲者の多い火災の一つとして深く記憶されています。

火災発生の緊急通報が入ったのは午前2時54分頃でした。通報を受けて、台湾の消防・救助当局は直ちに大規模な対応を開始。総勢377名を超える救助隊員が招集され、139台もの消防車や救急車が現場に急行しました。隊員たちは懸命な消火・救助活動を展開し、火災は発生から約4時間後の同日午前7時17分には鎮圧されました。火災発生から同日の正午までに、年齢が8歳から83歳にわたる62名の人々が建物から救出されましたが、多くの犠牲者が出たことが確認されました。

現場となったシティーセンタービルは、1980年に竣工した地上13階建ての建物です。完成当時は映画館やレストラン、多様な店舗やオフィスが入居し、地域のランドマークとして賑わいを見せていました。しかし、時代の移り変わりと共に商業の中心地が周辺に移転し、多くのテナントが撤退。さらに、建物全体の管理組合が存在しないことや複雑な権利関係が影響し、長年にわたり適切な管理が行われず、次第に廃墟同然の状態となっていました。

特に建物の7階から11階にかけては、かつてのオフィスフロアでしたが、管理が行き届いていない状況と安価な家賃から、経済的に恵まれない人々や身寄りのない高齢者が多く住み着く場所となっていたとされています。火災の犠牲者の多くが、まさにこの管理不全の高層階で発見されたことは、建物の荒廃ぶりが被害拡大の深刻な要因であったことを物語っています。

火災の原因については、発生直後には放火の可能性も疑われ、警察当局による捜査が進められました。しかし、その後の詳細な現場検証や関係者の聴取の結果、火災はたばこや蚊取り線香の不始末による失火である可能性が高いと結論付けられました。飲酒後に火のついた蚊取り線香をゴミ箱に捨てた疑いが持たれた50代の女性が、火災の原因を作ったとして警察に拘束されました。

この高雄ビル火災は、台湾において一つの建物で発生した火災としては、1995年に台中市で発生し64人が犠牲となったウェルカムレストラン火災に次いで、2番目に死者数が多い惨事となりました。また、負傷者を含めた総死傷者数で見ても、台湾で発生した火災の中でも突出して多くの被害を出した事例の一つに数えられます。

火災により建物は構造的な損傷を受け、倒壊の危険性が指摘されたため、その後解体される運びとなりました。高雄市政府は、この悲劇を忘れることなく、犠牲者を悼むとともに市民が集える場所として、跡地に公園を整備する計画を進めました。現在、この場所には「府北公園」が完成し、地域の憩いの場として市民に開放されています。

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