鬼子

鬼子について

鬼子（おにご）は、日本の民間伝承において、親に似ていない子供や異様な姿で生まれた子供を指す言葉です。特に、歯が生えた状態で生まれた場合に「鬼の子（おにのこ）」とも称されることがあります。これらの伝承は地域ごとに異なり、特有の信仰や風習が存在しています。

民間信仰

日本各地には、歯が生えた鬼子を縁起の悪い存在とみなす習俗が多く存在します。群馬県山田郡では、1本の歯が生えて生まれた子は近隣に捨てられ、2本生えている場合は成功する兆しとされました。他の地域では、10か月で歯が生えた子供を「塔婆」と呼び、三つ辻に捨てられる習慣が見られました。また、長崎県久賀島などでは、特定の年齢での出産が親に逆らう鬼子を生むとされ、別の家庭に拾わせる風習がありました。

愛知県田峯では、鬼子を放置することで親の一方が死ぬと信じられており、生まれた鬼子はすぐに殺害されていました。このような鬼子に対する扱いは各地に見られ、屋久島では、親が育てる意思があれば、鬼子の歯を折ることで正規の子供とみなされることもありました。妊婦が亡くなった場合には、その胎児が鬼子と見なされることもあり、埋葬された女性には産女の伝説が残されています。

古典・民話

古典や民話において、異常な姿や発育速度を持つ子供が怪異として描かれることがあります。貞享時代の怪談本『奇異雑談集』には、京都東山の獅子谷での鬼子の誕生の話が記述されています。ここでは、女が三度の出産後、四度目に鬼子を生んだという物語があります。この鬼子は、誕生時にすでに大きさが3歳程度で、非常に異様な外観を持ち、親に殺される運命にありながらも抵抗を見せ、生き返る様子が描かれています。

また、高力種信の『猿猴庵日記』には、名古屋で生まれた鬼子の姿が詳細に記されています。その特徴は、額に二つのこぶがあり、目の部分には一つの穴しかないなど、非常に奇妙でした。鬼子は活発に動き回り、布団で押さえられても跳ね返されるほどの力を持っていたものの、夕刻には死んでしまったとされています。

明治中期の怪異小説『夜窓鬼談』では、酒屋夫婦が不運に見舞われる物語が語られています。夫婦のもとに生まれた子供が、亡くなった客に似た鬼子であったために様々な災難に遭うのです。このように、古典作品でも鬼子は親の因果を象徴する存在として描かれていることがわかります。

岡山県阿哲郡に伝わる話では、不妊に悩む夫婦が祈った結果、鬼子が誕生します。この子供は自分で起き上がり、さっそく家を出奔してしまいましたが、15年後に再び姿を見せた時、家庭に良い影響を与えたという話が残っています。

鬼子についての伝承は、日本社会における親子の関係、信仰、そして異常誕生の観念を反映した文化的背景を持つと言えるでしょう。

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