鬼火 (横溝正史)

鬼火：横溝正史の名作

『鬼火』は、1935年に発表された横溝正史の探偵小説で、同名の短編集の表題作としても知られています。作品は、作家が健康を害し、信州の諏訪で療養していた時期に書かれました。執筆は決して容易ではなく、著者は体調不良にも関わらず、3か月を掛けてこの作品を完成させます。しかし、掲載された雑誌「新青年」では、一部の内容が検閲に引っかかり、削除が命じられるという波乱の幕開けとなります。

昭和10年に発表された春秋社版では、削除された部分が修正され再刊行されましたが、後に1969年に出版された完全版では、当初の「新青年」のテキストが復元され、より本来の姿が明らかになりました。さらに、1975年には角川文庫版が刊行され、著者により大幅な加筆修正が行われたため、いくつかの版が出版される背景には、作品の深い魅力と複雑な歴史が影響しています。

あらすじ

物語は、療養中の作者がある日、岬の先端にある不気味なアトリエに足を運ぶところから始まります。その中で、湖水の底に沈む裸の女性を描いた絵と異様な生物が絡みついている光景に遭遇します。翌日、アトリエの詳細を知る竹雨宗匠を訪ね、彼から万造と代助の従兄弟同士の複雑な関係や因縁を聞くことになります。

漆山万造と代助は、幼少期から互いに嫉妬と敵意に満ちた関係で育ちました。学校時代の争いや恋愛のライバル関係が泥沼のように絡み合い、ついにはそれが大事件へと発展していく様子が描かれています。両者は成長し、各々アトリエを持つ画家となったものの、再び運命的に交錯することになります。特に、万造の彼女であるお銀を巡る嫉妬や裏切り、また種々の事件が重なり、彼らの運命はさらに暗い影を落とすことに。

物語は、万造が事故に遭い、重傷を追った後の様子から新たな展開を迎えます。万造は仮面を被り、不気味な変貌を遂げながら、再びお銀との関係に執着し、最終的には彼女をも巻き込んだ悲劇にまで発展します。その後、怨念の念が巨大になり、代助も新たな展開に加わることで、3人の運命は泥の中へ引きずり込まれるように展開していきます。

登場人物

• - 竹雨宗匠: 作中での語り手であり、この事件を知る人物。
• - 漆山万造: 謎めいた画家で、主人公の一人。彼の創作における嫉妬と執着が物語の核をなす。
• - 漆山代助: 万造の従兄弟であり、同じく画家としての道を歩む。彼の運命は万造と密接に絡んでいる。
• - お銀: 二人の間で揺れる女性。不思議な魅力とともに、物語の中心に立つ。
• - お美代: 万造との付き合いが物語の幕を開ける要因に。
• - 山崎: 過去の事件に深く関わり、物語の運び手となる。

テレビドラマ化とその影響

本作は1983年にテレビドラマとしても取り上げられ、視聴者に新しい解釈を提供することとなりました。登場人物とその複雑な人間関係が、映像として展開されることで、さらに多くの読者や視聴者に影響を与えています。

『鬼火』は、横溝正史が織り成す緊張感のある人間関係と心理描写が際立った作品として、今でも多くの読者に親しまれています。歴史や心理、サスペンスが凝縮されたこの短編集を通じて、文学の深さに触れる機会を持つことができるでしょう。

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