鬼火の町

鬼火の町

松本清張による長編時代小説『鬼火の町』は、日本の文壇での彼の地位を確立する重要な作品の一つです。1965年から1966年にかけて『潮』に連載され、1984年に文藝春秋から刊行されました。この作品は、江戸時代の隅田川を舞台にしたミステリーで、主人公の岡っ引藤兵衛が複雑な事件に挑む姿を描いています。

あらすじ

物語は天保11年5月、明け方に起こる不可解な出来事から始まります。隅田川には無人の黒い舟が浮かび、そのすぐ後に「つたや」の船頭、仙造と屋根師の職人惣六の死体が流れ着きます。岡っ引の藤兵衛は現場に駆け付けますが、死体には青あざがあり喧嘩とは考えられない状況です。捜査を進める中で、被害者の持ち物ではない珍しい煙管が発見されます。その煙管の持ち主である伊東伝蔵の存在が、事件の謎を深めることになります。

藤兵衛は、彼の子分である幸太、亀吉に関係者を探させ、さらなる手がかりを追います。一方、若侍の釜木進一郎が藤兵衛の捜査に協力を申し出て、煙管が大奥の女中に渡ったものである可能性が浮上します。しかし、同心の川島正三郎が江戸幕府上層部からの圧力を受け、捜査の手を引くようにと指示します。これにより、藤兵衛と釜木は大きな壁に直面します。

その後、家斉の愛妾の養父が豪華なギヤマンの屋形船で通る場面に出くわし、前途の危険を感じつつも事件に立ち向かう決意を新たにします。事態が進むにつれ、新たな殺人事件が発生し、藤兵衛たちは身の危険を顧みずに結束し、真実を追い求めます。

主な登場人物

• - 藤兵衛: 古顔の岡っ引で、思慮深く事件を考えあぐねています。
• - 釜木進一郎: 若い侍で、被害者と親しかった人物。藤兵衛を助けます。
• - 幸太と亀吉: 藤兵衛の子分。彼らも事件の調査に参加します。
• - 川島正三郎: 同心。役人として利口で、藤兵衛に助言を与えます。
• - お美代の方: 大御所の愛妾で、物語に重要な役割を果たします。

エピソード

この小説の最終章は岡本綺堂の影響が指摘され、語り手である藤兵衛が語る形式が特徴的です。作品の中で松本は、ミステリーや探偵小説に強い興味を抱いていたことを示唆しています。著者は自身の青春時代に強く魅了されたことを回顧し、作品を通じてその思いを表現しています。

『鬼火の町』は、松本清張の独特な世界観やキャラクターの魅力を存分に楽しむことができる作品であり、江戸時代の日本を舞台にした緻密なストーリー展開が読み手を引き込むことでしょう。藤兵衛の活躍を通じて、正義と人間の闇を描いたこの物語は、文学的な価値と共に、エンターテイメント性も兼ね備えています。

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