魔法をかけられた男

『魔法をかけられた男』

フランシスコ・デ・ゴヤが1798年に制作した『魔法をかけられた男』は、戯曲『無理やり魔法をかけられた男』の一場面を基にしており、魔女や魔術をテーマにした連作の一部です。この絵画は、視覚芸術の枠を超えて当時の社会風潮や迷信を批判する要素も含まれています。

制作背景

本作は、オスーナ公爵によって購入されたものであり、彼がゴヤの重要な支援者であった時期に制作されました。公爵夫妻は、マドリードのエル・カプリーチョ邸の装飾にこの絵を使用したとされ、その邸宅は芸術家たちの集会所としても機能していました。公爵夫人のマリア・ホセファ・ピメンテルは、教会の腐敗や迷信を批判する改革者であり、彼女の部屋にこの風刺的な作品が飾られることは、当時の文化的な背景と相まって意義あるものでした。

連作《魔女のテーマ》には、『魔女たちの飛翔』や『魔女の夜宴』、さらには失われた作品も含まれています。これらの作品は、ゴヤの技巧と社会批評が融合したものと言えるでしょう。

作品の内容

『魔法をかけられた男』では、主人公のドン・クラウディオが描かれています。彼は迷信深い聖職者として設定され、悪魔が持つランプが火を消したら自分の命も終わると信じています。ドン・クラウディオは必死にランプに油を注ぎ、魔法が成功することを恐れています。この奇妙なシーンには、彼の必死さを強調するために、凝ったポーズや目の表情が施されています。一方で、画面右側には踊るロバの姿が描かれており、これがドン・クラウディオの発言を視覚的に表現しています。

作品全体からは、ゴヤが迷信や非合理的な考え方に対する批判を込めていることが感じられます。彼は、精神の不安定さが現実を幻想に変えてしまう危険性を警告しているのです。また、民間伝承やカトリック教会への皮肉も込められているとされています。

来歴と展覧会

この絵画は1798年に6,000レアルでオスーナ公爵に購入され、その翌年には王立サン・フェルナンド美術アカデミーでの展示にも供されました。しかし、1896年にはエル・カプリーチョ邸からナショナル・ギャラリーに移され、現在もロンドンのナショナル・ギャラリーで見ることができます。

このように、『魔法をかけられた男』は単なる視覚的な楽しみを超えて、当時の社会問題や迷信に対する鋭い視点を提供しており、観る者に多くのことを考えさせる作品です。

もう一度検索