鳳翔閣

鳳翔閣：埼玉の教育と歴史を刻んだ建造物

さいたま市浦和区（当時）に存在した鳳翔閣は、埼玉師範学校（現埼玉大学教育学部）の象徴的な建物でした。明治6年、小学校教員養成のための学校改正局として設立された学校は、翌年には岸村（現・岸町）に移転、埼玉県師範学校と改称します。そして明治11年、現在の埼玉会館の位置に移転した際に新築された校舎が、後の鳳翔閣の始まりとなります。

この校舎は、明治天皇の北陸巡幸の際に、行在所として使用されました。その際同行していた三条実美が、校舎の美しい外観を「鳳凰が翼を広げて翔び立つさま」に見立て、「鳳翔閣」と命名したと言われています。

その後、師範学校は常盤（現在のさいたま市役所付近）に移転。鳳翔閣は明治32年、私立埼玉女子学校として新たな役割を担うこととなります。翌年には埼玉県高等女学校と改称され、明治34年には埼玉県女子師範学校を併設、さらに浦和高等女学校と改名。県内唯一の高等女学校として、女子教育の中核を担いました。

その後、女子師範学校の移転や埼玉会館建設に伴い、鳳翔閣は移築。大正14年には、埼玉県立図書館の建物として改修され、戦後まで34年間、地域の人々に愛される図書館として機能しました。しかし、老朽化のため昭和34年には解体されました。

鳳翔閣の歴史はそこで終わらなかったのです。昭和47年、浦和市立郷土博物館（現・さいたま市立浦和博物館）が開館。その建物は、鳳翔閣の前面、特に玄関部分の外観を復元したものでした。可能な限り当時の部材も再利用され、明治時代の貴重な建築様式を現代に伝えています。さいたま市内に現存する明治時代の建築物は極めて少ないため、この復元された鳳翔閣は、歴史的にも貴重な存在となっています。

埼玉師範学校はサッカー発祥の地としても知られており、鳳翔閣はその歴史と伝統を象徴する存在でした。現在、浦和レッドダイヤモンズのエンブレムにも鳳翔閣のデザインが用いられており、地元浦和地区に深く根付いた歴史的建造物であることを示しています。鳳翔閣の復元は、単なる建物の復元にとどまらず、地域の歴史と文化、そして教育への貢献を継承する取り組みとして、高く評価されています。

なお、明治時代の建築物としては、日本赤十字社埼玉県支部（現在は嵐山町に移築）も挙げられます。また、鳳翔閣を由来とした日本酒を製造する内木酒造も存在し、鳳翔閣の歴史と魅力は様々な形で現代に受け継がれています。

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