鶴見大学本源氏物語系図

鶴見大学本源氏物語系図：室町時代の系譜と物語世界への深化

はじめに

鶴見大学本源氏物語系図は、室町時代末期に作成されたと推定される源氏物語の系図です。神奈川県横浜市にある鶴見大学が所蔵していることからこの名が付けられており、古系図として分類されています。現存する源氏物語系図の中でも、特に巣守巻関連の人物に関する詳細な記述が特徴的で、「巣守三位本」と呼ばれることもあります。本文書では、この貴重な系図の内容、特徴、そして関連資料との比較を通して、源氏物語の世界観や創作背景をより深く理解することを目指します。

系図の概要と特徴

鶴見大学本は、内題・外題・奥書といった一切の識別情報を持たず、一部に擦れや修正の痕跡が見られますが、全体として保存状態は良好です。現在は折本1帖の形態ですが、元々は巻物であったと推測されています。表紙は後補されたものであり、本文とはサイズがわずかに異なります。

系譜の詳細

系図には189人の人物が記載されています。これは、他の古系図と比較しても多い部類に入り、例えば九条家本（117人）、国文研本（163人）など、様々な系図と人物数を比較することで、鶴見大学本の位置づけを検討できます。

多くの系図では、皇室と源氏の系譜は「太上天皇」と「先帝」の系譜として別々に記されていますが、鶴見大学本はこれらを兄弟として扱い、一つの系譜にまとめています。この構成は、神宮文庫本や天理大学図書館蔵源氏物語巨細など、限られた系図にしか見られない特徴です。また、一般的に「右大臣」と呼ばれる人物を「悪大臣」「あし大臣」と記している点も、特筆すべき点です。

巣守巻に関する詳細な記述

蛍兵部卿宮の子である源三位とその子孫（巣守三位など）に関する記述は、正嘉本など他の系図と共通する部分も多いですが、鶴見大学本はさらに詳細な情報を提供しています。具体的には、源三位の妻とその死後の後妻、後妻の元の夫、巣守三位の乳母とその親族といった、これまで知られていなかった人物の系譜が明らかになっています。このような詳細な記述は、2007年に発見された国文研本を除けば、他に例を見ません。さらに、源三位の母を「前斎院」とする記述も、鶴見大学本独自のものです。

系譜以外の記述

系譜部分の後には、「そのすちともしらぬ人々」（系譜不明の125人）、「無名」（12人）といった記述があり、さらに「きぬの色を人ざまによりてさだめたる事」「人々のかたちを花によそへたること」「居所事」「源氏物語のおこり」といった、物語世界に関する記述も含まれています。これらの記述は、当時の社会状況や、作者の創作意図を知る上で貴重な資料と言えます。

類似資料との比較

鶴見大学本に類似する資料として、国文研本古系図が挙げられます。特に巣守巻に関する記述は共通点が多く、源三位の妻や乳母といった人物の系譜も両系図で詳細に記されています。しかし、太上天皇と先帝の扱い方や、「右大臣」の呼称など、相違点も多く存在します。また、収録されている人物の数も、鶴見大学本が189人であるのに対し、国文研本は163人となっています。さらに、伊井春樹が紹介した古筆手鑑『花月』に含まれる断簡も、鶴見大学本と共通する記述を持つことが確認されています。

まとめ

鶴見大学本源氏物語系図は、その詳細な記述、特に巣守巻に関する情報の豊富さ、そして他の系図にはない独特の特徴から、源氏物語研究において極めて重要な資料です。本稿では、その内容と特徴を詳細に解説し、類似資料との比較を通して、その価値と位置づけを明らかにしました。今後の研究においても、この系図は源氏物語の世界観や、その成立過程を解き明かす上で重要な役割を果たすものと期待されます。

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