鹿取茂雄

鹿取 茂雄

工業用薬品メーカーの研究者でありながら、日本の知られざる辺境である酷道や廃墟を精力的に探訪し、その記録を国内外に発信する探検家・フリーライター。ウェブサイト「TEAM酷道」主宰メンバーとしても知られ、独自の視点で日本の魅力を掘り起こす異色の存在である。

1977年10月5日、大阪府池田市に生まれる。幼少期から尽きることのない好奇心を持ち、現在は岐阜県岐阜市に居を構え、家族とともに暮らしている。

多彩な興味と探求心

鹿取氏の探求心は、幼い頃から様々な分野に向けられていた。小学生時代には鉄道に夢中になり、各地へ列車を追いかける日々を送った。中学生になると、夜行列車に乗車したり、駅舎で過ごしたりと、その情熱はより深まった。

鉄道と並行して科学にも強い関心を示し、高校時代には身近な現象である黒板とチョークの音に注目。「チョークの悲鳴」と題した研究リポートは高い評価を受け、日本学生科学賞の科学技術庁長官賞を受賞する快挙を成し遂げた。この経験は、「興味を持った対象には徹底的に向き合う」という、彼の探求スタイルの原点となっている。

大学は理系の工学部からスタートしたが、後に文系の情報社会政策学部へと編入した。この進路変更の背景には、当時深刻な問題となっていたダイオキシンに対し、技術的な解決だけでなく、社会政策的な側面からもアプローチしたいという思いがあった。このように、分野にとらわれず、問題解決のために必要な視点を柔軟に取り入れる姿勢は、彼のその後の活動にも活かされている。

酷道・廃墟との出会いと活動

鹿取氏が現在のライフワークである道路、特に「酷道」の世界に足を踏み入れたのは、2000年9月、運転免許を取得して間もない頃だった。初めての本格的な運転で経験した悪路走行が、彼を道路の魅力に引き込む決定的なきっかけとなった。

20代にはJR東海関連会社での非正規雇用を経て、大学での学びを活かすべく工業薬品メーカーの研究職へと転身。現在は愛知県名古屋市のメーカーで研究開発業務に本業として従事している。

会社員として働く傍ら、鹿取氏は自身の情熱を傾ける活動を精力的に続けている。2001年には、酷道愛好家が集まるオンラインコミュニティ「TEAM酷道」を設立。以来、主宰メンバーの一人として、全国の酷道や廃墟を訪ね歩き、その記録を残している。インターネット上では「よごれん」のコードネームで知られ、「TEAM酷道」のウェブサイト管理人を務め、探訪記や写真、地図情報などを発信し、多くのファンを獲得している。

趣味が高じて、鹿取氏はフリーライターとしても活動を開始。自身の探訪活動に基づいたルポルタージュを執筆し、多数の書籍を出版している。代表的な単著には、『命がけで行ってきた 知られざる日本の秘境』、『酷道を走る』などがあり、いずれも独自の視点と臨場感あふれる文章で、日本の辺境のリアルを描き出している。また、廃墟に関する著書や、この分野の専門家たちとの共著も多く、この分野における第一人者としての評価を不動のものとしている。

活字媒体だけでなく、イベント出演も活発に行っている。自身の経験や知見を語るトークイベントは人気が高く、全国各地で開催されている。さらに、CBCテレビの『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』をはじめとするテレビ番組にも出演し、一般にも広くその存在が知られるようになった。

人物像と多忙な日常

私生活では、妻と5人の子どもに囲まれ、一家の大黒柱として多忙な日々を送っている。本業と並行して、週末は家族サービスと自身の探訪活動に時間を費やしている。全国を駆け巡る彼の移動を支えるのは、複数台所有する愛車たちだ。中でも兄から譲り受けたダイハツ・ソニカを愛用していることはよく知られている。年間走行距離は約6万kmにも達し、その活動量の多さを物語っている。

鹿取茂雄氏の活動は、単なる個人的な趣味の範疇を超え、現代社会から忘れられつつある日本の風景や、そこに刻まれた歴史を記録し、次世代に伝える重要な意味合いを持っている。専門職という堅実な仕事を持ちながらも、自身の「好き」を徹底的に追求し、それを多くの人々と共有する彼の生き方は、多くの人々に刺激とインスピレーションを与えている。未知の世界への尽きない好奇心と、それを実現するための行動力こそが、鹿取茂雄という稀有な存在を形作っているのである。

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