黄色いアイリス

『黄色いアイリス』

『黄色いアイリス』（きいろいアイリス）は、アガサ・クリスティが1948年に著した短編集で、全9編の推理小説が収められています。この作品にはエルキュール・ポアロを主役にした5編、ミス・マープルの短編1編、そしてパーカー・パインを主人公にした2編が含まれています。内容はそれぞれ異なり、一般的な推理小説と幻想の要素が交わるものがあります。

出版の背景

本書は、1939年に発表された『The Regatta Mystery』を基にしており、日本の早川書房により1980年に刊行されました。目を引くのは、タイトルが「レガッタ・デーの事件」から「黄色いアイリス」に変更された点です。また、収録される短編の一部も変更されており、「夢（The Dream）」が除外される代わりに「二度目のゴング（The Second Gong）」が追加されています。

各篇の概要

1. レガッタ・デーの事件

主人公パーカー・パインが数人のゲストを招待されたレガッタの日の出来事を描きます。ダイヤモンドが盗まれる事件が発生し、パインはゲストの一人からの助けを求められ、その真相を突き止めます。実は、事件は共謀によるもので、巧妙に模造品とすり替えられていたのです。

2. バグダッドの大櫃の謎

エルキュール・ポアロが依頼を受け、あるパーティーでの殺人事件を調査します。被害者が大櫃の中で発見され、真犯人は意外な人物でした。ポアロの鋭い洞察力が加わり、関係者の隠された動機が明らかになります。

3. あなたの庭はどんな庭?

ポアロが女性から手紙を受け取り、彼女の死亡に繋がる事件を調査することになります。毒を使った巧妙な殺人が明らかになる中、ポアロの推理力が発揮されます。彼が庭を巡る調査から得た洞察がキーポイントとなります。

4. ポリェンサ海岸の事件

パーカー・パインがマジョルカ島で出会った家族の問題を解決しようとする中で、新しい女性の出現が一波乱を呼ぶストーリー。母親の望みと若者たちの相互関係が描かれます。

5. 黄色いアイリス

ポアロが再び登場し、あるレストランでの急な呼び出しから始まる緊迫した事件。出席者たちの過去が絡み合い、暗い真実が浮かび上がってきます。特に、ポロに電話をかけた女性にまつわる事件は緊張感あふれる展開が期待されます。

6. ミス・マープルの思い出話

弁護士から紹介されたミス・マープルが、近隣の村での殺人事件の真相を探ります。彼女の考察が、密室の謎を解く鍵となります。

7. 仄暗い鏡の中に

幻想小説であるこの話は、鏡を通じて不思議な出来事が描かれ、主人公の内面的葛藤にも焦点が当てられています。幽霊屋敷のような家での出来事は、心理的な深層を探るかのようです。

8. 船上の怪事件

ポアロが船旅の途中で出会った事件が、彼の思考力に対する試練となります。不審な状況や殺人事件が次々と展開し、鋭い観察と分析により真実が解明されていきます。

9. 二度目のゴング

ポアロが自殺に見せかけた殺人事件を調査していく中で、過去の出来事が絡み合う複雑な推理が展開されます。人間関係と裏切りが織り交ぜられたストーリーは、読者を引き込みます。

結論

この短編集『黄色いアイリス』は、クリスティの代表的な作品の一つであり、各話において緻密な推理と豊かなキャラクター描写が魅力的です。エルキュール・ポアロやミス・マープルが織りなす推理劇は、どの作品も一つの魅力を持ちながら、全体としてはクリスティの多彩な才能を示しています。

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