黄錦周

黄錦周（ファン・クムジュ、황금주）氏は、1927年に現在の韓国にあたる朝鮮忠清南道扶餘で生まれ、2013年に亡くなった女性です。彼女は、かつて旧日本軍の慰安婦であったと公に証言した主要人物の一人として知られています。由緒ある家柄でありながら経済的に苦しい家庭に育った黄氏は、幼少期から困難な境遇にありました。

黄氏の証言によると、彼女が慰安婦となった経緯にはいくつかの異なる説明があります。ある証言では、13歳（1934年）で父親の病気による借金のため養女に出され、実際には女中として扱われた後、さらに別の家に移り、そこで学校へ通わせてもらったと述べています。そして19歳（学校卒業間近）の時に日本軍に慰安婦にされたとしています。別の証言では、17歳の時（1939年）、咸鏡道の女学校在学中に国民徴用令で軍需工場へ行くものと思っていたが、吉林の慰安所に着いたとしています。さらに別の機会には、17歳の時、日本人の村の指導者の妻から未婚少女全員に工場行きが命じられ、労働者として徴用されると思ったと語っています。また、1941年（20歳）頃に村の班長から「一家に一人は日本の工場で働かねばならない」と言われ、養家の借金を返済するため、あるいは他の家族の身代わりとして志願したとも証言しており、さらに14歳の時に「処女供出」で満州に連行されたという証言も存在します。これらの証言の間には、年齢、時期、慰安婦になった理由や経緯について食い違いが見られますが、いずれも、彼女が不本意な形で朝鮮を離れ、満州の吉林周辺の日本軍慰安所に送られたという点は共通しています。

吉林に到着した黄氏は、当初日本軍のテントで過ごし、後に木造の簡素な慰安所に移されました。これらの施設は日本軍の管理下に置かれ、食事も軍人と共に取るような状況でした。彼女はそこで極めて過酷な生活を送ることを強いられました。証言によれば、1日に何人もの相手をさせられ、時には気絶するほどであり、生理の時でも拒否は許されませんでした。兵士からの暴力は日常茶飯事で、数百回、数千回殴られたと語っています。病気で衰弱した慰安婦が穴に埋められ手榴弾で殺されたという話も耳にしたといいます。慰安所での生活は、人間としての尊厳が全く認められないものでした。外出は厳しく制限され、月を眺めているだけでも殴られる、独り言を言えば文句を言ったと殴られるといった状況でした。また、妊娠しないように「606号注射」を投与されたとも証言しています。衣類は年に2回しか支給されず、食事も餅と水が主で不十分でした。性的サービスに対する対価は一切なく、約5年間慰安婦として使われたと述べています。

特に衝撃的な証言として、吉林の慰安所で子宮が腫れ、性行為ができなかった日、ある将校から口での行為を強要され、それを拒否した際に激しい暴行を受け、数日間意識を失ったというエピソードがあります。また、初めて性的な被害を受けた際の詳細についても証言しており、処女であった彼女が、兵士にスカートや下着を引き裂かれ、気を失った際に血だらけになったと語っています。

1945年8月の終戦時、黄氏は吉林の慰安所にいました。日本軍が去り、自由になったものの、病気で歩けない同僚を残して一人帰路につきました。朝鮮への帰国は同年12月でした。

戦後、黄錦周氏は、自身が受けた被害について公に証言活動を行いました。彼女は「証拠がないわけがないだろう。私が証拠じゃない」と述べ、自身の存在こそが何よりも確たる証拠であると訴えました。

黄氏の証言は、慰安婦問題の存在を明らかにする上で重要な役割を果たしましたが、その内容には一部で矛盾が指摘され、信頼性を巡る議論も生じました。漫画家の小林よしのり氏は自身の著作で、黄氏の証言における慰安婦になった時期や経緯に関する記述の矛盾点を指摘しました。一方、ソウル大学教授であった安秉直氏は、初期の慰安婦調査において、証言者の中には事実を歪曲している者もいたとしながらも、黄氏を含む19人の証言については記録資料などとも照合し、「自信をもって世の中に送り出す」ものであるとして、その信憑性を肯定的に評価していました。しかし、後に安氏は見解を変化させ、「強制動員されたという一部の慰安婦経験者の証言はあるが、韓日とも客観的資料は一つもない」「無条件による強制によってそのようなことが起きたとは思えない」と述べ、日本のケースにおける「自発性」に言及するなど、初期の評価とは異なる立場を示しました。これらの議論は、慰安婦問題全体の複雑さを示すものとなっています。

黄錦周氏は、自身の体験を語り続ける中で、心身ともに深い傷を負い続けたことを訴えながら、2013年に85歳で生涯を終えました。彼女の証言は、歴史認識や戦争責任を巡る議論において、今日なお重要な意味を持っています。

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