黒いパンプス

黒いパンプス

1982年1月18日、日本の歌手、麻倉未稀によって通算2枚目のシングルとしてキングレコードから発売されたのが「黒いパンプス」である。前作のシングルに続く本作は、当時の日本の音楽シーンで隆盛を迎えつつあったシティポップというジャンルのサウンドを取り入れた意欲作として位置づけられる。

楽曲解説

シングルA面に収められた表題曲「黒いパンプス」は、洗練された都会的な雰囲気を纏うシティポップナンバーとして制作された。この楽曲の作詞と作曲を担当したのは、いわさきゆうこ氏である。いわさきゆうことは、後に今井美樹をはじめとする多くの著名なアーティストに提供した楽曲でヒットを飛ばし、J-POPシーンを代表する作詞家の一人となる岩里祐穂氏の、かつてのペンネームとして知られている。「黒いパンプス」は、その岩里祐穂氏の初期における重要な創作活動の一端を示す作品と言えるだろう。編曲は、長年にわたり数々の名曲を手がけてきた音楽プロデューサー兼アレンジャーの瀬尾一三氏が担当している。瀬尾氏による丁寧かつダイナミックなアレンジメントは、楽曲の持つシティポップとしての魅力を最大限に引き出し、都会の情景やそこに生きる人々の情感を音によって表現している。

一方、シングルのカップリング曲として収録された「涙のBirthday Card」は、麻倉未稀が前年1981年にリリースしたファーストアルバム『SEXY ELEGANCE』からのシングルカット楽曲である。この曲の大きな特徴は、作詞を麻倉未稀本人が手がけている点にある。歌い手自身が言葉を紡ぐことで、楽曲にはよりパーソナルで、感情のこもった表現が加えられている。作曲は高瀬政彦氏、編曲はA面と同様に瀬尾一三氏が担当した。アルバム収録曲の中から特に選ばれてシングルカットされたことは、「涙のBirthday Card」がアルバムの中でも際立った魅力を持っていたこと、あるいはシングルとしての訴求力が期待されたことを物語っている。

リリース背景と後世への影響

「黒いパンプス」がリリースされた1982年は、日本のポップスが多様化し、シティポップが独自のジャンルとして確立されつつあった時期にあたる。麻倉未稀は、この2枚目のシングルでシティポップ路線を打ち出すことで、自身のアーティストイメージを明確にし、その後のキャリアにおける方向性を示すこととなった。彼女の力強くも情感豊かなボーカルは、こうした都会的なサウンドとも高い親和性を示し、新たなリスナー層を獲得するきっかけとなった。

発売から三十年以上が経過した2014年3月26日には、このシングルがMEG-CDとして復刻され、取り扱いが開始された。これは、かつてのレコードやアナログ媒体でしか入手が難しかった楽曲が、現在の一般的な音楽メディアであるCD形式で手軽に聴けるようになったことを意味し、後追いのファンやシティポップ再評価の波の中で楽曲を知った人々にとって、作品に触れる貴重な機会を提供している。

「黒いパンプス」は、麻倉未稀の初期キャリアを代表する一曲であるとともに、作詞家・岩里祐穂氏のルーツを探る上でも興味深い作品であり、また1980年代初頭の日本のシティポップを構成する一要素としても、音楽史的に価値のある楽曲と言えるだろう。このシングルによって培われた音楽性は、その後の麻倉未稀の活躍へと繋がる重要な一歩となったのである。

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