黒い翼

黒い翼

『黒い翼』は、横溝正史著の短編推理小説であり、人気シリーズ「金田一耕助シリーズ」の一環として1956年に発表されました。この作品は、手紙を介した恐怖の連鎖が引き起こす事件をテーマにしており、作品の舞台は緑ヶ丘という住宅街です。

物語は、1956年のある時期、緑ヶ丘で「黒い翼」と呼ばれる不幸の手紙が流行するところから始まります。この手紙には、特定の文面を7人に送信しなければ恐ろしい秘密が暴露され、さらには流血の惨事が起こると書かれていました。特徴的なのは、手紙が真っ黒に塗りつぶされた葉書に鉛筆で書かれているという点です。

緊迫したこの雰囲気の中、原緋紗子という若い映画女優にも多くの「黒い翼」が届けられます。彼女は、1年前に服毒死した人気女優藤田蓉子の邸宅を引き継いだばかり。蓉子の死に関与する人物の一人である緋紗子は、周囲の目から逃れることができず、手紙の恐怖におびえる日々を送っていました。

この状況に、不安を煽る新たな暴露の影が忍び寄ってきます。蓉子が臨終の際に一緒にいたのは、緋紗子と、彼女のマネージャーである新聞記者の梶原修二、蓉子の主治医の小泉省吾だけ。過去の出来事の秘匿性が際立つ中、蓉子の元マネージャー土屋順造は、緋紗子が秘密を知っていると告発。

蓉子の死因は砒素の服毒によるものであり、自殺として処理済みですが、1年経った今も多くの謎が残っています。特に興味深いのは、蓉子には戦前から付き合っていた楽士、田口健吉との間に子どもがいたかもしれないという点。実際にはその生死が不明で、蓉子の豊かな収入とは裏腹に経済的な困窮に陥っていたことも考えられています。

金田一耕助は、緋紗子の引っ越し祝いで蓉子の邸宅を訪れ、様々な事情を聞かされます。そして、蓉子の一周忌を迎える中、大々的に「黒い翼」を焼却する儀式が企画されます。このイベントは多くのマスコミの注目を集め、盛況のうちに終了。しかし、供養のその後、蓉子の誕生日パーティーの参加者を含む数名が謎の毒殺に見舞われ、再び金田一は事件の解決へと動き出すことになります。

追い詰められる緊張感の中で、金田一は新たな事実に気づきます。すべての手紙の背後には、恐喝を目的とした者の影が見え隠れし、それが蓉子の臨終と直接的に関わっていたことを突き止めるのです。探偵としての金田一の鋭い洞察力が発揮され、彼は真実を解き明かすべく、様々な人物の証言を集め、疑念を払拭するための手がかりを見つけ出します。

本作は、手紙による恐怖、秘密の暴露、そして人間ドラマが交錯する傑作であり、横溝正史の筆致が光る一作となっています。緊迫感あるストーリー展開と、深い心理描写が織りなす『黒い翼』は、読む者に忘れがたい印象を残すことでしょう。

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