黒い貴族

黒い貴族：教皇を支持したローマ貴族たち

黒い貴族（くろいきぞく、イタリア語: aristocrazia nera）とは、1870年から1929年にかけてのイタリア王国のローマ問題において、ローマ教皇と教皇庁を支持する立場をとったローマ貴族たちの呼称です。

ローマ問題と黒い貴族の誕生

1870年、イタリア王国軍がローマを占領し、教皇領は消滅しました。これにより、教皇はバチカンに幽閉されるという事態に陥りました（バチカンの幽閉）。この時、教皇ピウス9世を支持し、イタリア王国への忠誠を拒否したのが、黒い貴族と呼ばれる人々でした。

彼らは、かつて教皇庁に仕え、教皇によって貴族に列せられた家系の子孫たちでした。教皇庁や教皇の宮廷で重要な地位を占めていた彼らは、ローマ入城後も教皇への忠誠を貫き、自分たちの宮殿や邸宅の扉を閉ざして、失われた教皇の権威を悼みました。

ラテラノ条約と黒い貴族

1929年、イタリア王国と教皇庁の間でラテラノ条約が締結され、バチカン市国が成立しました。これにより、黒い貴族たちはイタリア王国とバチカン市国の二重国籍者となりました。

黒い貴族に属する貴族家門の多くは、教皇に仕える貴族儀仗兵 (Guardia nobile) を輩出していました。1931年、スペイン王アルフォンソ13世は、カトリック諸国の全ての貴族家門出身者に貴族儀仗兵となる資格を認めるよう願い出ましたが、教皇ピウス11世はこれを認めませんでした。1970年に貴族儀仗兵が廃止されるまで、教皇忠誠派のローマ貴族のみがその任に就きました。

黒い貴族の構成家門

黒い貴族を構成する主な貴族家門としては、以下のものが挙げられます。

コロンナ家
マッシモ家
オルシーニ家
パラヴィチーニ家
ボルゲーゼ家
オデスカルキ家
サケッティ家
ルスポリ家

すでに家系の絶えたものとしては、サヴッリ家、カエターニ家、コンティ家などがあります。

その後

改革派の教皇パウロ6世が彼らから恩恵や特典を剥奪すると、教皇庁と黒い貴族たちの間には禍根が残りました。1977年5月、エルヴィーナ・パラヴィチーニ公夫人を指導者とする一部の黒い貴族は、聖ピオ10世会の創立者マルセル・ルフェーブル大司教の支持を表明しました。

黒い貴族は、歴史の波に翻弄されながらも、教皇への忠誠を貫き、その伝統を守り続けているのです。

もう一度検索