黒の回廊

黒の回廊

松本清張の『黒の回廊』は、女性だけを対象としたヨーロッパ観光ツアーでの連続殺人事件を中心に展開する長編ミステリー小説です。この作品は、1971年4月から1974年5月まで『松本清張全集』の月報に連載され、1976年に文藝春秋から加筆された形で出版されました。また、1984年と2004年にはテレビドラマとしても制作されています。

あらすじ

物語は、女性たちが25日間にわたってヨーロッパを巡るツアーから始まります。最初のフライトで乗り継ぎの際、アンカレッジやコペンハーゲンで些細なトラブルが発生し、参加者の間には嫉妬や牽制が渦巻きます。これらの諍いを乗り越えつつ、旅行は進行しますが、しかし急速に事態は悪化していき、スコットランドでの参加者の殺害事件に発展します。事件は深刻化し、関係者がスイスに集められ、一同の前で謎解きが始まることになります。

主な登場人物

• - 土方悦子: 27歳のツアーガイドで、文学に造詣が深く、年齢よりも幼く見える。
• - 門田良平: 中堅旅行会社のベテラン添乗員。プライドが高いが、ツアー参加者の身勝手さと事件によって振り回される。
• - 梶原澄子: 43歳の未亡人で産婦人科の病院長。医療知識があるが、他の参加者に不快感を抱く。
• - 藤野由美: 美容デザイナーで、ツアー先でモデルのように振る舞って周囲を困惑させる37歳。
• - 多田マリ子: 飲食店経営のマダムで、40歳。高級な和服を身にまとっている。
• - 星野加根子: あまり社交的ではない38歳の未亡人。
• - 竹田郁子: 清楚な雰囲気を持つ31歳の女性教師。
• - 金森幸恵: 魚屋の妻で、45歳の最年長参加者。
• - 鈴木道夫: フリーのルポライター兼カメラマンで、事件の発見以降ツアーに同行。
• - 江木奈岐子: 45歳の旅行評論家で、悦子をツアーガイドに推薦。
• - エドワード・イングルトン: スコットランドのキンロス警察署の部長刑事。
• - クリフォード・ヒューズ: ロンドン警視庁の警部。

執筆について

本作の執筆は、著者の担当編集者である藤井康栄の状況が影響しています。彼は当時海外に行ったことがなかったため、著者は藤井を海外視察に送り込むよう手配しました。この取材を通じて、旅行参加者の生態や行動が細かく描かれています。

『黒の回廊』は、連載版と単行本版でいくつかの変更点があります。たとえば、連載版ではツアーがロンドン経由で進行していましたが、後の単行本ではコペンハーゲンでの怪事件が追加されています。また、連載版には著者のエッセイが挿入されていましたが、単行本化の際に削除されるなど、内容は少しずつ変遷しました。

作品の舞台とテレビドラマ

物語の舞台には、デンマークのコペンハーゲンやロンドン、スコットランド、スイスがフィーチャーされています。そして、1984年と2004年に放送されたテレビドラマは、それぞれ原作の魅力を生かした形で異なるアプローチを見せています。特に2004年版は、舞台をフランスやスペインに移すなど、オリジナリティが加えられています。

このように『黒の回廊』は、単なるミステリー作品を超えて、さまざまな人間ドラマや心理の葛藤を描いた深い作品として評価されています。

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