黒蘭姫

『黒蘭姫』の詳細

『黒蘭姫』（くろらんひめ）は横溝正史による短編推理小説であり、彼の代表作である金田一耕助シリーズのひとつです。本作は1948年1月から3月まで『読物時事』で連載され、後に角川文庫『殺人鬼』や春陽文庫『壺中美人』に収録されています。物語は、京橋裏にある三角ビルの金田一耕助の探偵事務所が舞台となっており、等々力警部のシリーズ初登場作品としても注目されています。

物語の背景と展開

物語は、銀座の百貨店「エビス屋百貨店」での不穏な事件から始まります。閉店間際の宝石売場で、新人店員の伏見順子は黒い外套とヴェールを身につけた女性、「黒蘭姫」とあだ名される人物の行動を目撃します。黒蘭姫は、宝石の品定めをしながら万引きをするという異常な行動を取り、順子はそれを主任の沢井啓吉に知らせます。しかし、沢井が黒蘭姫に近づいた瞬間、刺殺されてしまいます。この事件の背後には、万引きの規則とそれに従った異常な慣習がありました。

その後、警視庁の等々力警部が事件現場に駆けつけ、関係者から事情を聴取します。ヴェールの女は万引きを日常的に繰り返しているが、万引きされた品物の代金は後日その家に請求される仕組みになっています。等々力警部は、黒蘭姫が無知の新人店員を利用している可能性があると推測します。

二つの殺人事件

物語は二つの殺人事件に発展します。一つ目は沢井の刺殺、そして次は宮武謹二という前主任の毒殺事件です。宮武は一週間前に解雇された人物で、彼が毒殺された際、その場には黒蘭姫とも疑われる人物がいました。等々力警部はこの二つの事件を結びつけ、黒蘭姫の正体を追及することにします。

この過程で、等々力警部は「黒蘭姫」の正体がエビス屋百貨店の社長令嬢、新野珠樹であることを突き止めます。珠樹は、自身の万引き行為とそれに伴う事件により、警察の尋問を受けることになります。彼女の婚約者である糟谷六助は、珠樹が無実であることを証明しようと、金田一耕助に事件解決を依頼します。

主な登場人物とその関係

• - 金田一耕助 (私立探偵)：殺人事件の真相を解明するために動き出す。
• - 等々力大志 (警視庁警部)：事件の捜査を指揮する。
• - 沢井啓吉 (被害者)：百貨店主任。事件の初期段階で命を落とす。
• - 宮武謹二 (被害者)：解雇された元主任。その死が新たな疑問を生む。
• - 新野珠樹 (黒蘭姫)：万引き常習犯で社長令嬢。事件の中心人物。
• - 糟谷六助：珠樹の婚約者で、彼女を救おうと奮闘する。

物語の結末

珠樹の驚きと事件に絡む血に染まった短刀の発見が、物語のクライマックスを迎えます。彼女は事件の背後にある複雑な人間関係と、万引き行為の重大さを認識することで、事件の真相が少しずつ明らかになっていきます。金田一は独自の視点から、事件を解決へ導く役目を果たします。

『黒蘭姫』は、単なる推理小説にとどまらず、人間の心理や社会の暗部に迫る作品であり、横溝正史の才能が強く表れています。

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