龍時

龍時 (リュウジ) - 未完のサッカー叙事詩

『龍時』は、脚本家・小説家である野沢尚氏によって書かれた、日本のサッカー小説です。文春文庫から3巻が発行されましたが、作者の急逝により未完となりました。しかし、そのリアリティ溢れる描写と、サッカーへの深い愛情が込められた物語は、多くのサッカーファンや選手から支持されています。

あらすじ

物語は、2001年から2004年の3シーズンを中心に展開します。

2001-2002シーズン:
主人公・志野リュウジは、全国的には無名なサッカー少年。しかし、U-16代表候補に選ばれたことがきっかけで、U-17スペイン代表との試合に出場する日本選抜の一員に選ばれます。そこで世界のレベルを肌で感じたリュウジは、リーガ・エスパニョーラのアトランティコFC会長に見出され、下部組織であるシティオ・アトランティコへの入団を誘われ、単身スペインへ。

2002-2003シーズン:
リュウジのバルセロナ戦でのゴールが評価され、レアル・ベティスへレンタル移籍。超攻撃的サッカーを信奉するビクトル・フェルナンデス監督の下、スーパーサブとして活躍します。レアル・マドリードやセビージャFCといった強豪との対戦を通じて、リュウジは世界のトップレベルを体感していきます。

2003-2004シーズン:
アテネオリンピックに日本代表として出場したリュウジは、ファンタジスタ不要論を唱える平義監督の下で、世界の強豪国と対戦します。梶との連携、ヴィクトル・ロペスやパクとの激しい戦いを通じて、リュウジは組織サッカーに染まった日本代表に変化をもたらしていきます。

登場人物

志野リュウジ:
本作の主人公。卓越したドリブルとパスセンスを持つ司令塔。当初はスペインでの生活やチームとの連携に苦労するも、次第に才能を開花させていきます。名前には「龍」の意味が込められています。

時任礼作:
リュウジの父であり、フリーライター。離婚後もリュウジの成長を陰ながら見守ります。

志野喜子:
リュウジの母。スナックを経営しながら、女手一つでリュウジと妹を育てます。リュウジのサッカーへの情熱を理解しつつも、心配する一面も。

志野ミサキ:
リュウジの妹。兄の背中を押し、スペインへの旅立ちを支えます。

アリシア:
リュウジが下宿する「ペペ・デ・ボンボ」の看板娘。リュウジの異国での生活をサポートします。

ペペ:
「ペペ・デ・ボンボ」の店主で、アリシアの祖父。アトランティコFCの熱狂的なサポーターで、リュウジたちを温かく迎え入れます。

マリア・アンドラーデ:
リュウジの隣に住むフラメンコダンサー志望の少女。リュウジと恋に落ち、互いに支え合います。

エミリオ・デ・オルドニュエス:
シティオのMF。日本での生活経験があり、リュウジの通訳としてサポートする。
アントニオ・マルティーネス:
シティオのMF。

ビクトル・フェルナンデス:
レアル・ベティスの監督で、攻撃的なサッカーを重視。

梶祐一郎：
オリンピック日本代表のMF。リュウジとはライバル関係。

平義盾夫：
オリンピック日本代表の監督。

ヴィクトル・ロペス：
オリンピックスペイン代表のMF。リュウジのライバル。

* 朴鐘元：
オリンピック韓国代表のMF。リュウジの親友。

作品の魅力

『龍時』の魅力は、サッカーの試合描写の臨場感と、登場人物たちの人間ドラマが丁寧に描かれている点にあります。異国の地で夢を追いかけるリュウジの葛藤や成長、チームメイトや家族との絆、そしてライバルとの激しい戦いが、読者の心を揺さぶります。

未完の作品ではありますが、野沢尚氏が描こうとしたサッカーへの情熱と、人間ドラマの奥深さは、今もなお多くの読者に感動を与え続けています。

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