100万回生きたねこ

『100万回生きたねこ』は、1977年に作家・佐野洋子によって発表された不朽の絵本作品です。

概要
この物語は、限りない生と死を経験する一匹の猫の生涯を追うことで、自己愛から他者への深い愛情、そして喪失を経て初めて知る真実の悲しみ、さらには自身の死の受容という、普遍的で哲学的なテーマを描き出しています。子どもだけでなく、特に多くの大人からの共感と支持を集めており、「絵本の名作」として広く認識されています。読み手によって多様な解釈が可能な奥行きを持ちながらも、自分自身だけを愛し虚栄心に満ちていた猫が、特定の存在への関心から恋を知り、家族を持つことで愛を知り、やがて大切な存在を失う悲しみを通じて、生きることの意味を深く理解していくという、シンプルながらも心に響くストーリーが展開されます。本書は累計発行部数200万部を超えるベストセラーとなっており（2013年9月現在）、通常版に加え、特別なセット商品も販売されています。なお、「昔は『100万回死んだねこ』というタイトルだった」という俗説が存在しますが、そのような事実は確認されていません。

あらすじ
物語の主人公であるオス猫は、百万回の生と死を経験します。王様の猫、船乗りの猫、手品使いの猫、泥棒の猫、おばあさんの猫、小さな女の子の猫など、数えきれないほどの飼い主の元で生まれ変わり、その度に死を迎えました。どの飼い主も心から猫を愛し、その死を深く悲しみますが、猫は誰のことも好きになれず、ただ自分自身を愛していました。何度も生き返ることができた猫は、死を恐れることもありませんでした。
ある時、猫は誰にも飼われることのない自由な野良猫となります。百万回生きたことを自慢する猫は、多くのメス猫たちの憧れの的となり、彼女たちは猫の気を引こうと様々なアプローチを試みます。猫はその状況に満足していましたが、ただ一匹、全く自分に関心を示さない白猫の存在に気づき、強く惹かれるようになります。白猫に振り向いてもらおうとするうちに、猫はいつしかただ彼女の傍にいたいと願うようになり、二匹は共に生きることを選びます。白猫と共に過ごす中で、猫はかつての自慢話をすることもなくなりました。
やがて白猫との間にたくさんの子猫が生まれ、猫はあれほど愛していた自分自身よりも、白猫や子どもたちを深く愛するようになります。子どもたちが成長してそれぞれの道を歩み去った後も、猫は白猫と穏やかな日々を過ごし、これから先もずっと一緒にいたいと願っていました。しかし、時は残酷にも流れ、白猫は次第に老い、ある日、猫の傍らで静かに息を引き取ります。生まれて初めて愛する者を失った猫は、声の限りに泣き続けました。昼も夜も、朝が来ても泣き止まず、百万回泣いたと言われるほど深く悲しみました。そしてある日、猫は泣き止み、白猫の隣で静かに動かなくなりました。今度こそ、猫は二度と生き返ることはありませんでした。それは、初めて知った真実の愛によって満たされた、猫にとって最初で最後の本当の死でした。

評価
歌人の枡野浩一は、この作品の独特な読後感を高く評価しています。百万回の生と死を繰り返した主人公の猫が最後に迎える永遠の死に対し、多くの読者が「よかった」という安堵や満足感を得るというこの不思議な感覚こそが、物語の核心であり、実物を読んでこそ味わえる魅力であると語っています。

メディアミックス
本作は様々な形でメディア展開されています。NHK教育テレビ（Eテレ）の番組「母と子のテレビ絵本」では映像化され、1991年の初回放送以降、繰り返し放映されています。また、1995年には大竹しのぶによる朗読CDが発売されました。舞台化も多数行われており、OSK日本歌劇団や沢田研二主演、森山未來・満島ひかり主演、深田恭子・成河主演など、繰り返しミュージカルとして上演されています。朗読劇としても、玉置玲央・笹本玲奈主演で上演された実績があります。さらに、作者である佐野洋子の晩年を記録したドキュメンタリー映画『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』（小谷忠典監督）が2012年に公開されており、佐野洋子自身も顔を映さない形で出演しています。様々な媒体を通じて、多くの人々に愛され続けている作品です。

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