1840年代の航空

1840年代の航空

1840年代は、人類が空へと挑んだ歴史において、気球による飛行がその可能性を広げると同時に、後の航空技術の基礎となる動力飛行の概念や実験が始まった、まさに転換期と呼べる時代でした。

気球飛行の広がりと新たな試み

この年代の初め、1840年には、カナダのニューブランズウィック州セントジョンにおいて、ルイ・アンセラム・ローリアット氏が「スター・オブ・ジ・イースト」号と名付けられた気球に乗り込み、カナダにおける記念すべき最初の気球飛行を成功させました。これは、北米における気球技術の普及を示す出来事でした。

気球はその手軽さから、探検や娯楽としてだけでなく、実用的な応用も模索され始めます。特に、第一次イタリア独立戦争中の1849年7月、オーストリア軍はヴェネツィア攻撃のために気球を兵器として利用する試みを行いました。オーストリア海軍の気球母艦「ヴルカノ」からは、人を乗せた熱気球が飛ばされ、そこから爆弾を投下する計画が立てられましたが、残念ながら逆風により目標に到達できず、この試みは失敗に終わりました。

しかし、これに前後して、オーストリア陸軍のフランツ・ウハティウス氏が開発した、約10kgの重さの風船爆弾が実際に使用されました。1849年7月12日から25日の間に、合計200発もの風船爆弾がヴェネツィアに向けて放たれましたが、その効果は限定的だったと記録されています。これは、航空機を使った最初の爆撃の試みとして歴史に名を刻んでいます。

また、気球による長距離飛行も進歩しました。1849年9月2日には、フランスのフランソワ・アルバン氏がマルセイユからイタリアのトリノまで、気球で見事な飛行を成功させました。これは当時の技術水準を考えれば特筆すべき偉業でした。しかし、そのわずか数ヶ月後の11月23日、アルバン氏はトリノからさらにスペインのバルセロナへの飛行に挑戦しましたが、この飛行中に消息を絶ち、二度と戻ることはありませんでした。この出来事は、当時の長距離気球飛行がいかに危険と隣り合わせであったかを物語っています。

動力飛行への夢：構想と初期の実験

気球が現実の空を飛ぶ一方で、より自在な飛行を目指して、重航空機、特に動力飛行機の研究も本格的に始まりました。1843年、イギリスのウィリアム・ヘンソン氏は、蒸気機関を動力とする飛行機の詳細な構想を発表し、フレデリック・マリオット氏、D・E・コロンバイン氏と共に特許を取得しました。彼らはこの壮大な計画を実現するための資金を集めるべく、同年に「空中輸送会社（Aerial Transit Company）」を設立しました。これは、世界初の民間航空会社の設立を目指した試みとも言えます。

ヘンソン氏らの構想は、当時の技術では極めて先進的であり、実現には困難が伴いました。しかし彼らは諦めず、1848年にはジョン・ストリングフェロー氏と共に、実際に蒸気機関を搭載した模型飛行機を製作しました。この模型機は、下り勾配の付いた台を利用した実験において、台からの離陸には成功しました。ただし、自力で上昇するまでには至らず、あくまで限定的な成功ではありましたが、これは動力飛行に向けた初期の貴重な実験例となりました。

滑空飛行の研究

動力飛行とは異なるアプローチとして、揚力を利用した滑空飛行の研究も進んでいました。同じく1840年代末の1849年、航空力学のパイオニアであるジョージ・ケイリー氏は、三葉のグライダーを設計し製作しました。彼はこのグライダーに10歳の少年を乗せて滑空実験を行い、成功を収めました。これは、機体の形状によって揚力を得て滑空できることを実証した重要な実験であり、ライト兄弟の飛行実験へと繋がる流れの一つとなりました。

まとめ

1840年代は、気球による飛行技術が普及し、長距離移動や軍事への応用が試みられる一方で、ウィリアム・ヘンソンやジョージ・ケイリーといった先駆者たちが、動力飛行や滑空飛行という全く新しい概念の実現に向けて、理論的な研究や模型を使った実験を開始した時代でした。成功と失敗、そして悲劇的な出来事もありましたが、これらの多様な試みは、次の十年、そしてその先のライト兄弟による初飛行へと続く、航空技術発展の確かな一歩となったのです。

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