1857年メキシコ憲法

1857年のメキシコ連邦憲法

1857年2月5日に批准されたメキシコ合衆国連邦憲法は、当時の大統領イグナシオ・コモンフォルトの政権下で起草された、近代メキシコ史における画期的な自由主義憲法です。この憲法は、個人の権利を確立することに重点を置き、言論、良心、報道、集会、武装といった基本的な自由を保障しました。また、奴隷制度、債務者監獄、特定の過酷な刑罰（例えば死刑の一部制限）を廃止・再確認するなど、人道的な側面も強化されました。

政治体制においては、強力な立法府と独立した司法府を設けつつ、独裁を防ぐために行政府の権限を抑制するという、連邦制の下での弱い中央政府を意図した設計がなされました。これは、過去の権力集中に対する反省に基づいています。

この憲法の自由主義的な思想は、財産に関する規定にも色濃く反映されていました。特に個人の財産権が強調される一方で、先住民共同体やカトリック教会といった団体による不動産所有は厳しく制限されました。憲法の条文には、カトリック教会に対して批判的な内容が多く含まれており、教育からの教理の排除、教会特権（フエロ）の剥奪、教会財産の強制的な売却などが盛り込まれていました。これは、当時のメキシコ社会において大きな影響力を持っていた教会勢力に対する、自由主義派の強い改革意思を示すものでした。

成立の背景

1855年にアントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ将軍の独裁政権が崩壊した後、メキシコの自由主義者たちは自らの政治理念を法制化する機会を得ました。フアン・アルバレス大統領によって招集された議会は、新しい自由主義的な憲法の草案作成に着手しました。当初、議会は穏健派（1824年憲法を一部改正して復活させたい）と純自由主義派（全く新しい憲法を制定したい）に分かれて激しく対立しましたが、最終的にはコモンフォルト大統領が穏健派に与したにもかかわらず、純自由主義派の急進的な提案が多く憲法に採用されました。これには、聖職者共同体による資産購入の禁止、聖職者の公職追放、教会や軍の特権廃止（フアレス法）、そして信教の自由といった、教会の既得権益に反する内容が含まれていました。

これらの改革案はカトリック教会や保守派の強い反発を招き、憲法制定議会の開催中に聖職者側の武装蜂起が発生しました。コモンフォルト大統領は連邦軍を用いてこれを鎮圧しましたが、憲法の公布後も教会側は憲法への忠誠宣誓者を破門すると通告するなど、深刻な対立が続きました。

主な内容と特徴

全8章128条から成る1857年憲法は、1824年憲法と同様に連邦制と代表共和制を採用し、メキシコを複数の州、直轄地、連邦区から構成されるものと定めました。また、地方自治の基礎単位としてムニシピオ（市町村）の重要性を認めました。

特筆すべき重要な条文には以下のようなものがあります。

第2条: 奴隷制度の廃止。（1829年に既に廃止されていましたが、再確認されました。）
第3条: 教義や宗教的制限を受けない教育の自由。
第5条: 職業選択の自由。
第7条: 言論の自由。
第10条: 武器を所有する自由。
第13条: 個人や団体の特権、特別裁判所（フエロ）の禁止。
第22条: 残酷な刑罰の禁止（身体の切断、焼印、拷問など）。
第23条: 政治犯に対する死刑の廃止。（後に国家反逆者には適用可能に修正。）
第27条: 一般市民および聖職者の団体による不動産取得・管理の禁止。（レルド法）
第50条: 行政府、立法府、司法府の明確な三権分立。

また、個人の人権を保護するための法的手続きとして「アンパロ」に関する章が含まれていました。これは、ユカタン共和国憲法に由来する制度です。議会については、当初は一院制（代議院のみ）でしたが、後に両院制（元老院の復活）へと変更されました。

連邦構成も1824年憲法制定時から変化しており、テキサスの独立や米墨戦争での領土喪失、新たな州の成立などを経て、1857年憲法では23州、1直轄地、連邦区という体制が定められました。

その後の影響と廃止

1857年憲法の公布後、ローマ教皇ピウス9世はこれを強く非難し、特に教会財産や特権に関する条項（フアレス法、レルド法）を批判しました。国内でも教会側は憲法への忠誠宣誓者を破門すると通告し、メキシコ社会は深刻な分裂状態に陥りました。

保守派は憲法廃止を目指すクーデター（タクバヤ綱領）を計画し、コモンフォルト大統領は一時これに同調しましたが、結局辞任・亡命し、国家最高司法裁判所長官であったベニート・フアレスが合法的な大統領として政権を引き継ぎました。しかし保守派はこれを認めず、独自の政府を樹立したため、メキシコは自由主義派政府と保守派政府による内戦状態、すなわちレフォルマ戦争へと突入しました。この内戦は自由主義派の勝利に終わりましたが、憲法は内戦期間中は十分に機能しませんでした。

その後、外国からの干渉とメキシコ第二帝政（ハプスブルク家のマクシミリアン皇帝による統治）によって憲法は再び効力を停止されます。しかし、1867年に共和派が帝政を打倒し、共和制を復活させた際に、1857年憲法は再びメキシコの基本法として施行されることになりました。

1857年憲法は、その急進的な自由主義改革ゆえに多くの対立を生みましたが、メキシコ近代化の方向性を示す重要な役割を果たしました。この憲法は、メキシコ革命後の1917年に新たに制定された現行憲法に取って代わられるまで、メキシコ合衆国の基本法であり続けました。

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