1870年代の航空

1870年代は、1860年代から続く航空への探求が多様な形で展開された革新的な時代でした。特に気球は実用的な用途で重要な役割を果たし、1870年に勃発した普仏戦争では、包囲下のパリと外部との不可欠な連絡手段として、気球による郵便や人員の輸送が広範に行われました。数ヶ月間にわたり数十回の飛行が成功し、多くの人々が難を逃れました。また、気球は科学的な探求にも用いられ、高高度の大気条件を調査する試みも行われましたが、酸素供給の問題から悲劇的な結果を招いたケースもありました。大型気球の登場も特筆すべきで、1878年のパリ万国博覧会では巨大な気球が来場者を乗せて浮揚し、当時の一大アトラクションとなりました。日本では、西南戦争時に軍事気球の開発が急務となり、複数の機関で研究が進められました。そして1877年には、国産初の有人水素気球が飛揚に成功し、日本における航空の黎明期を示す出来事となりました。

一方、空気より重い機体、すなわち重航空機の分野でも画期的な実験が進みました。フランスでは、ギュスターヴ・トルーヴェが火薬エンジンを用いた模型オーニソプターを開発し、見事な飛行を実証しました。同じくフランスのアルフォンス・ペノーは、ゴム動力の優れた模型飛行機「プラノフォア」を完成させ、後の航空機設計に影響を与える特許を取得しました。この特許には、現代機にも通じる引込脚など、先進的なアイデアが含まれていました。イギリスでは、フランシス・ウェナムとジョン・ブラウニングが世界で最初の風洞を建設し、体系的な空力研究を開始しました。彼らは模型実験を通じて、翼の揚力と抗力の関係を解明し、アスペクト比の大きい翼が効率的であることを発見しました。トマス・モイは蒸気機関を搭載した大型模型で浮揚実験に成功しています。

有人での重航空機飛行への挑戦も始まりましたが、技術的な障壁は高く、困難を伴いました。フランスのデュ・タンプルは、蒸気機関付きの機体を傾斜路から滑走させることで短いジャンプ飛行を試みました。ベルギーのヴィンセント・デ・グルーフは、巨大な人力オーニソプターを製作し、気球で吊り上げて空中から放つという大胆な実験を行いましたが、残念ながら飛行せず、悲劇的な墜落事故となりました。

操縦可能な軽航空機、すなわち飛行船の開発も継続されました。フランスのアンリ・デュピュイ・ド・ロームは人力でプロペラを駆動する気球を開発し、操縦可能なことを示しました。ドイツのパウル・ヘンラインは、合成ガスを燃料とするエンジンを搭載した飛行船のテスト飛行を行い、動力による一定速度での飛行を実現しました。アメリカでもチャールズ・リッチェルによる人力飛行船の飛行が記録されています。

このように、1870年代は気球の実用的な利用の確立から、重航空機の科学的基礎研究、そして動力を用いた模型や有人機、飛行船の初期的な開発まで、今日の航空に繋がる多様な技術が芽吹いた、極めてダイナミックな10年間でした。

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