1925年の航空

1925年は、航空技術と運用の両面で顕著な進歩が見られた年でした。商業航空の黎明期から発展期へと移行する中で、新たな企業の設立やサービスの提供が始まり、長距離飛行の限界に挑む試みが世界各地で行われました。軍事分野でも航空機の重要性が増し、その活用方法が模索されました。

商業航空の発展と新たな試み

年明け早々の1月1日には、フランスの主要な航空会社であったCFRNA（Compagnie franco-roumaine de navigation aérienne）が組織改編され、CIDNA（Compagnie internationale de navigation aérienne）として再出発しました。これは、当時の国際航空路網の整備に向けた動きの一つと言えます。

アメリカでは、航空産業を牽引する重要な企業が誕生しました。かの有名なクライド・セスナ、ウォルター・ビーチ、ロイド・ステアマンといった面々が中心となり、トラベルエア社が設立されたのです。また、7月13日にはカリフォルニアで郵便航空輸送を担うウェスタン・エア・エクスプレスが事業を開始するなど、航空をビジネスとして確立しようとする動きが活発化しました。

旅客サービスの分野では、ドイツで画期的な出来事がありました。飛行中の旅客機内で、史上初めてとなる（ただし無声の）映画が上映されたのです。これは、空の旅における快適性やエンターテインメント性を追求する最初の試みの一つとして特筆されます。

長距離飛行への挑戦と記録

1925年は、パイロットたちが驚異的な長距離飛行に挑んだ年でもあります。2月12日から4月3日にかけて、ベルギーのエドモン・ティエフリーは、母国からアルジェリアを経由してベルギー領コンゴのレオポルドヴィルまで、実に8,200kmにおよぶ長距離飛行を成功させました。

日本の航空史においても重要な出来事がありました。7月25日から10月27日にかけて、朝日新聞社の「初風」号および「東風」号が、東京を出発し、モスクワを経てイタリアのローマへと向かう訪欧飛行を敢行したのです。安辺浩、河内一彦両パイロットと、篠原春一郎、片桐庄平両機関士によって操縦・整備されたブレゲー19型機は、総行程17,403kmを飛び切り、日本からヨーロッパへの長距離飛行を初めて成し遂げました。

南米ボリビアでは、LAB航空がユンカースF.13を使用して、8月5日にコチャバンバとスクレ間での初飛行を実施し、地域航空の道を切り開きました。

一方、困難な試みもありました。8月31日には、アメリカ海軍のジョン・ロジャースらが飛行艇PN9でカリフォルニア州からハワイまでの無着陸横断を目指しましたが、燃料不足により目標達成には至りませんでした。

イタリアのフランチェスコ・デ・ピネードは、水上機SIAI S.16ter「Gennariello」号を駆り、4月20日にイタリアを出発し、オーストラリアを経由して10月27日に東京へ到着するという壮大な長距離飛行を成功させました。この功績により、彼はFAI（国際航空連盟）からその年のゴールド・エア・メダルを授与されました。

軍事および技術の進化

軍事分野では、航空機の役割が拡大しました。5月1日には、日本陸軍において航空兵科が正式に独立し、陸軍航空部が陸軍航空本部へと格上げされました。これは、陸軍における航空戦力の重要性が認められたことを示す動きです。初代の航空本部長には安満欽一が就任しました。

アメリカ沿岸警備隊は、6月20日に初めて航空機を密輸追跡任務に投入しました。ヴォートUO-1がこの任務に使用され、航空機が法執行機関の活動にも応用される先駆けとなりました。

スペイン海軍は、9月3日に行われた第3次リーフ戦争において、飛行船母艦兼水上機母艦であるデダロから水上機を発艦させ、爆撃作戦を実施しました。これは、航空母艦の運用思想につながる試みと言えます。

技術面では、12月にイギリスの飛行船R33からデ・ハビランドハミングバードという小型機を発進させ、飛行後に再び飛行船に回収するという実験に成功しました。これは、空中での航空機運用における重要なマイルストーンでした。

競技会と人材

航空競技会も盛んに行われました。6月9日には、ゴードン・ベネット・トロフィーに参加したウォード・ヴァン・オーマンらの気球が大西洋上を漂流し、貨物船への夜間緊急着陸を行うという出来事がありました。また、10月26日には第5回シュナイダー・トロフィー・レースが開催され、米国のカーチスR3C-2を操縦したジミー・ドーリットルが見事優勝を果たしました。

パイロットとして道を切り開く人々も現れました。2月28日には、韓国人女性パイロットのクォン・キオクが中華民国の雲南陸軍航空学校を卒業し、空軍パイロットとして正式に認められました。

一方で、航空活動に伴う犠牲もありました。9月3日、アメリカの飛行船シェナンドーがオハイオ州上空で暴風雨に遭遇し墜落、13名の搭乗員が命を落とすという痛ましい事故も発生しています。

1925年は、これらの多様な出来事を通じて、航空が社会の様々な側面に浸透し、その可能性と課題が明らかになった一年であったと言えるでしょう。

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