1926年のラジオ (日本)

1926年は、日本のラジオ放送にとって歴史的な転換点となった年です。この年、日本の放送事業は大きな組織的再編を経て、将来の発展に向けた礎が築かれました。

日本放送協会の設立と組織再編

この年の最も画期的な出来事は、既存の主要放送事業者である東京放送局、大阪放送局、名古屋放送局という三つの社団法人が統合されたことです。これにより、1926年8月20日、単一の全国的組織である社団法人日本放送協会が新たに発足しました。

統合後、従前の各放送局組織は、それぞれ日本放送協会内の関東支部、関西支部、東海支部として位置づけられることになりました。また、放送の際に使用される局名アナウンスも、「東京中央放送局」「大阪中央放送局」「名古屋中央放送局」と、「中央」の文字が付記された名称に改められ、全国中枢としての役割が意識されるようになりました。

全国放送網の整備計画

組織統合を経て、日本放送協会は全国的な放送サービスの提供を目指すための具体的な計画に着手しました。同年10月27日には、将来の放送体制を確立するための「第一期放送施設五か年計画」を策定しました。

この計画の核心には、「全国鉱石化」という明確なスローガンが掲げられていました。これは、当時普及し始めていた簡易な構造の鉱石式受信機（鉱石ラジオ）でも、日本国内のあらゆる地域で放送を安定して受信できる環境を整備することを目標としています。

「全国鉱石化」の実現に向け、計画では既存の送信所の出力強化を進めるとともに、放送網がまだ整備されていない地方都市に新たな放送局を開設するための詳細な計画が推進されました。これは、ラジオが一部都市部のリスナーだけでなく、全国民の情報源となるための重要な一歩でした。

大阪中央放送局の新たな展開

組織再編と並行して、個別の放送局施設の整備も進められました。特に大阪においては、1926年12月1日に大阪中央放送局（現在のNHK大阪放送局）が新たな段階を迎えました。

この日、大阪中央放送局は演奏所（スタジオおよび放送機能の中心施設）を新しい本局舎である上本町に移転し、本格的な中波放送の運用を開始しました。新施設への移転に伴い、送信出力も従来の設備から1キロワットへと大幅に増強され、より広い範囲への放送が可能となりました。

教育・文化番組の開始

この年には、教育・文化的な側面を重視した新たな番組も放送開始されました。

2月1日には東京放送局で「婦人講座」が開始され、女性向けの教養番組が提供されるようになりました。
7月には、東京放送局で音楽や語学に関する講座番組が相次いでスタートしました。7月18日には「西洋音楽講座」が開講し、翌19日には「仏語夏期講座初等科」「英語夏期講座初等科」「独語夏期講座初等科」といった夏季語学講座が開始され、ラジオを通じた学習機会が拡充されました。

これらの番組は、当時の社会におけるラジオの役割が、単なる娯楽提供にとどまらず、教育や文化普及の手段としても期待されていたことを示しています。

大正天皇崩御に伴う特別報道

1926年の年の瀬、日本のラジオ放送は極めて厳粛な役割を担うことになりました。

12月15日頃から、大正天皇のご病状が悪化する中、東京、大阪、名古屋の各中央放送局は、急遽特別編成体制に入りました。「聖上御容体」や「臨時ニュース」といった表題で、通常予定されていた番組を大幅に変更・中断し、天皇のご病状に関する最新情報が逐次、集中的に報道されました。

報道体制は日を追うごとに強化され、12月16日からは娯楽や演芸に関する番組がすべて中止されました。さらに、ご病状がさらに深刻化した12月24日の夜以降は、教養系の講演番組なども含め、報道以外のほとんどの番組が停止されました。

そして、12月25日の未明、東京では午前2時54分、大阪と名古屋では午前3時00分に、大正天皇が崩御されたという歴史的な報が、全国のリスナーに向けて速報として伝えられました。

崩御の速報が流れて以降、放送内容はさらに限定され、時報、ニュース、天気予報など、社会生活に必要な最低限の情報提供にのみ絞られるという、かつてない厳粛な編成がとられました。

まとめ

1926年は、日本におけるラジオ放送事業が、地方的な組織から全国的な単一組織へと発展し、将来の普及拡大に向けた具体的な計画を策定した年でした。同時に、国家的な一大事に際して、速報メディアとして国民統合の役割を果たすなど、その社会的影響力と責任が改めて認識された一年でもありました。これらの出来事は、その後の日本の放送史の基盤を確立する上で、極めて重要な意義を持つものと言えます。

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